取りあえず始めようか 36 | 瑠璃色の地球(ほし)の青宝玉

瑠璃色の地球(ほし)の青宝玉

大野君に魅せられ、重症サトシックのおばさんです。
年甲斐もなく智愛叫んでます。
お名前をお借りして腐小説を書いています。
ご理解いただける方のみお入り下さい。

男性の方のご入室はご遠慮下さい。

貴方の笑顔で目覚めて

貴方の匂いに包まれて眠りに就く

そんな、当たり前の日常を失いたくない

どんな言葉で言い繕っても、頭で理解しても

手を伸ばしたところに貴方がいない現実を

受け止められはずがない

出来るわけがないんだ

俺に取って大切なのは貴方だけ

 

「あれ?今日は一人なの?」

 

カウンターの向こうから

笑顔を添えたマスターの優しい声

 

「あっ ・・・ あとで ・・・ 来ると思います ・・・」

俯いたままカウンターに座る

 

「ん? ・・・ 元気ないけど、どうしたの?

 まあ、もうすぐ彼の引越しだから ・・・

 君の気持ちはわからんでもない

 だけど、笑顔で送り出してあげないとダメだよ

 で、何にする?」

 

「珈琲を ・・・」

それだけ言って、カウンターテーブルに突っ伏した

 

俺の選択を手放しで喜んでくれると思ってた

正直、あそこまで怒るなんて ・・・

言わなかったのは悪いって思ってる

想ってるけど ・・・ 吃驚させたかったんだ ・・・

喜ぶ顔を見たかったんだ ・・・

どこが間違ってたんだろ ・・・

 

「櫻井君 ・・・ 櫻井君 ・・・ これで顔を拭きなさい」

 

ゆっくり顔を上げると

マスターが湯気を立てたおしぼりを二つ渡してくれた

 

「喧嘩したの?」

 

貰ったおしぼりで顔を拭きながら

大きく溜息をついた

 

「マスター、俺 ・・・ また間違えたかもしれない」

 

さっきの話をゆっくり話す

マスターは何も言わずに黙って聞いててくれた

 

「どうすればいいのか ・・・ 

 あんな怒った顔 ・・・ 初めてだったから ・・・

 あの人、普段から感情を露わにする人ではないんです

 いつも ・・・ 丸ごと俺を受け止めてくれて ・・・」

 

マスターは苦笑いを浮かべて

 

「どっちの気持ちも分からないではない

 彼もそこまで愛されたら本望だろう(笑)

 一つ質問していい?」

 

「はい ・・・ 何なりと」

 

「新しい夢は誰の為?

 君の描いた夢?

 それとも彼の側に居たいがために選んだ事なの?」

 

あの人の側に居たいが為に選んだ夢?

 

「最初はそうでした ・・・ 短絡的でした ・・・ 

 どうやったら側に居られるか

 そればかり考えてましたから ・・・

 その為に色々な資料を読み勉強しました

 その時、この仕事に携わりたい思いました

 日本という国は文化財保護に関しては

 欧米諸国より遅れているんです

 文化財保護に対して組まれている国の予算は

 先進国の中でも、かなり低いラインです

 だから ・・・ やりがいのある仕事だと思ったんです」

 

マスターは優しい顔で

 

「君らしいと言えば君らしい

 転勤が決まって舞い上がって

 その事が言いたくてウズウズしてたんだろ?」

ってクスッと笑う

 

確かに言いたくて ・・・ 

隠してるのが苦痛だった

 

「喜ばせたくて ・・・ だから ・・・ つい ・・・」

 

マスターが納得した様な顔で

 

「肝心なところをすっ飛ばして

 結論だけ言うから、彼が戸惑ったんだ

 一緒に暮らせる事が嬉しくない訳ない

 ただ、自分と一緒に居る為だけの選択だったら

 取り返しがつかないって思ったのも事実

 それらしいこと言ってなかったかい?」

 

「そう言えば ・・・ 俺が妨げになってないかって ・・・」

 

「君の描いた夢を説明しない事が

 事をややこしくしたんだな

 彼はまず君の事を考える

 それは、分かってるだろ?」

 

どんな時も俺の事考えてくれる

だから甘えてた ・・・

 

「なぜ怒ったかの理由の一つが

 君の出世の妨げになってるかもしれないって危惧した事

 少し前の君と同じじゃないかな?

 彼が京都行を辞めると言った時の事思い出してごらん」

 

マスターはコーヒーを淹れながら

 

「相手の事を考えなさいって言わなかったっけ?」

 

「言われました、独りよがりで自分勝手だって」

 

そう答えると、可笑しそうに笑って

 

「そこまで酷い事言ったかな(笑) ・・・

 彼、ずっと離れても大丈夫だって言ってなかった?」

 

「ええ、毎日のように ・・・ 

 遠距離でも大丈夫だからって

 何ども俺の事気遣って、励ましてくれてました」

 

俺が難しい顔する度

包み込むような笑顔で

言い聞かせてくれてた

 

「それは、自分にも言い聞かせてたんだな

 不安な気持ちを拭うようにね

 まだ付き合って半年だっけ?」

 

「ええ ・・・ 丁度それくらいです ・・・」

 

「励まし合いながら一緒に歩いてた筈の君が

 全く違う事を考えてた ・・・ 

 そりゃ、諸手を挙げて大賛成って喜べないと思う

 君がどう思ってこの道を選択したのか

 そこをしっかり話さないと」

 

「俺は ・・・ あの人に相応しい相手なんだろうか?」

 

マスターが少し怖い顔で俺を見て

 

「それを聞いてどうしたいの?

 もし、私が相応しくないと言ったら

 君はどうするの?

 彼から離れるの?」

 

思いっきり頭を左右に振った

 

「離れません ・・・ どんな事が有っても

 相応しい相手になれるように努力します」

 

「その気持ちが有れば

 今回の事も乗り越えられるよ

 まず自分が彼の立場だったら

 何も相談されなかったらどう思うのか?

 そこを考えればおのずと答えは出てくるはず

 悪いと思ったら謝る、それから説明する

 はい、コーヒー入ったよ

 これを飲んで、少し落ち着きなさい」

 

マスターが優しい笑みを浮かべて

コーヒーカップを差し出した

 

 

同じ事をしたんだ ・・・

勝手に決めて ・・・

あれだけ何でも話そうって言ったのに ・・・

 

 

「一つだけアドバイス

 隠しごとをしないなんてのは理想論

 全てを曝け出す必要もない

 ただし、肝心な事だけは伝えなさい

 それを見極める為に

 必ず一呼吸おいて、ゆっくり話しなさい

 君が彼を大好きなのは分かってるから」

 

「マスター ・・・ ありがとう

 いつも助けて貰って感謝してます」

 

「どういたしまして ・・・

 すれ違ったまま離れてしまった二人を知ってるから

 今頃 ・・・ どうしてるんだか ・・・」

 

淋しそうな顔をして壁に掛かった絵を見てた

 

 

 

 

最初から話すから ・・・

俺が描いた貴方と歩く未来

賛成してくれるよね? 

 

 

 

 

 

 

<続きます>