こちらの国でも、月に1回程度、お客さんの付き合いで、カラオケへ行くことがある。
お客さんといっても、日本から来た同じ会社の人間であれば、歌う曲にもそれほど気をつかう事はない。
しかし、得意先さんの接待なんかだと、とても困る。
はしゃいだポップな曲では、空気が読めないと言われるし、かといって、ど演歌では相手の十八番をとってしまいかねない。
そこで、私が常に用意しているのが「上を向いて歩こう」である。
現在、サントリーのCMでいろんな方が、リレーで歌っている。震災のみなさんも勇気が出るんじゃないかと思う。
私が、この曲を用意しているのは、このCMからではない。
数年前、お客さんの接待で鹿児島で飲んだ時からである。
お客さんのレベルが高かったので、我が社も平野さんという、偉い人が同行されて来た。
あとは、鹿児島のトップと、私の上司と、私の5人での接待である。
2次会は、クラブ風のスナック。ビルの4階にある、ご用達のお店である。
広すぎず狭すぎず、明るすぎず暗すぎない、いいムードの店内。
ママさんと、少し若手である20代後半の店員さんが、テーブルについてくれた。
森伊蔵や、魔王といった芋焼酎の瓶が並んで、始まった。
1次会とは雰囲気が変わり、みんな笑顔でサザックバランな話題である。
私が、森伊蔵で、魔王を割って、これなら最高にうまいかも?と氷をかき混ぜていた時。
ママさんから「そろそろ、歌でも、、、」とカラオケの誘いである。
最初は、お客さんに歌わせる事は出来ないので、その中では一番の若手である私が歌うのが当然である。
隣に座った上司が、分厚いカラオケ本で、私の背中を強打してきた。
上司が、私に本を渡しながら、、、「おいっ」と声を掛けた。
「それ以上、言わなくてもわかっています」と私。
私は、本を持ち直し、角の部分を真上に上げ、反対側の隣にいる平野さんの後頭部を狙おうとすると、、、
上司「違うだろ~」との事。
私「なんだ^^。回せって事かと思って」
もし、止めなかったら、そのまま平野さんの後頭部を強打して、怒った平野さんに、上司を指さして、「回ってきた」と言ってやるつもりであった。
そうすれば、私の昇進は、確定であったのに、、、う~ん残念。
私が、カラオケ本とにらめっこして、まだ20秒である。その時、、、、
平野さんが私に声を掛けてきた。
本を見て、下を向いていた私にはスキがあった。やばい、仕返しにマイクで殴られるのか?と防御姿勢をとった時、、、、
満面の笑みで「歌を入れてくれ」という。
その時の曲が「上を向いて歩こう」である。
とても上手とは、言えない平野さん。
しかし、私は、全力で合いの手を入れた。
場を盛り上げようとした訳ではない。
若手の私が、すぐ入れなきゃいけないのに、その場の雰囲気を崩すまいと、平野さんが入れてくれたのだ。
普通なら、私に向かって「サッサと入れなさい」と言っても当然である。そこを自ら歌ってくれたのだ。
私がダメなら、隣にいる私の上司に歌わせればよい。しかし、、、、自らである。
平野さんとの付き合いは長いから知っているが、カラオケ好きではない。酒好きでもない。
簡単そうに見えて、とても深い優しさ、である。
口に出して「しょうがないなぁ、、」なんて、余分な事も言わない。
私は、それまでの酔いが、サッーと覚めた。本当の男の優しさを感じた。
歌い終わった平野さんに、全力で拍手をしていた私に、上司が「次は、お前な」と言ってきた。
合いの手、拍手をしていて、カラオケ本を見ている暇などなかった私は、間を開けていけないと「上を向いて歩こう Part2、、有りますか?」と間抜けな、笑いをとっていた。
この時から、平野さんと、この曲に敬意をはらって、いざという時は「上を向いて歩こう」を用意している。
私が、こっちへ来るときに、優しい声を掛けてくれた平野さん。今年、役員定年の平野さん。少しでも、平野さんの教えを受け継ぎたいと思います。
PS:パンジー君。チケット取れたから、帰国する事に決まったよ。