「そうだ、ピザという手があったな。」
と、飼い主が油揚げの袋を開けている。
油揚げは、消費期限がきてしまった。
冷凍するのが好きではない飼い主は、常備している油揚げを、ときにもて余してしまう。
「何でもチーズをからませれば、美味しく食べられるんだわ。」
サッと焼いたハムを油揚げにはさみ、フライパンで焼く。
油揚げに焼き色がついたら、チーズをたっぷり乗せて蓋をしてさらに焼く。
ハムとチーズの塩分だけで、十分美味しい。
こちらは、食べ物ではない。
箪笥の柄やくりぬいた引手が、【あの、蝶】だ。
そう、お察しの通り、森英恵のもの。
引き出しはほとんど傷んでいないが、今回の断捨離でさようならすることにした。
なにしろ、重すぎる。
高さは飼い主の膝くらいまでしかない小さな家具なのに、かなり重い。
だから箪笥から出して単体で使おうかと思ったのを、やめた。
「これからは、自分の力で動かせない物は、持たないことだ。」
そう決めた飼い主は、いずれ婚礼箪笥も処分するにしてもと、それに先駆けて付属品から片付けることにした。
「ハー。
森英恵のを捨てて、プラスチックの収納ケースだけは残すんだわ。
箪笥よ、今までありがとう。
婚礼箪笥としての賞味期限を、ここまでとさせていただきますよ。
農家の嫁の苦労や涙が、40年の間にいっぱい詰まった婚礼箪笥。
入っていた服だけじゃなくて、もう、そういう精神的な中身も、スパッと断捨離❕」
飼い主の箪笥は特に、婆様への憤懣で、今にも破裂しそうでしたよねえ。
まあ、箪笥というのは、案外使いづらいようですね。
特に、畳の部屋に置かれた箪笥は、場所をとるし畳が傷むし容易に動かせない、思ったより収納力がないと。
今では作り付けのクローゼットが主流ですし。
潔い飼い主は、どんどん処分できるが、思い切りの悪い夫は、モノの消費期限、賞味期限が過ぎても、けっこう躊躇してしまう性格だ。
だが飼い主は、それを断ち切る魔法の一言を編み出した。
「取っておきたい?
かまわないよ~。
キミの部屋に置けばね❗」
かくして。
飼い主らは、夫の休日のたびに片付けを進めていて、前日は倉庫にもぐっていた。
夫は、大量のモノを運びだし、黙って捨てるようになった。
これも捨てる?なんて飼い主に聞こうものなら、全て自分の部屋に引き取らなければならない、というルールを作られたからだ。
爺様婆様の旅行記念の、金比羅船船と彫られた大きな額。
(飼い主らには何も関係ない)
夫の高校時代の教科書。
(飼い主の息子の教科書でさえ、とっくにない)
夫の大学時代のエレキギター。
(そんなもの、感電死する)
婆様の嫁入り支度の座布団。
(もう一度嫁に行くなら、保管しておけ)
という具合だ。
「しかし、いかに大量のモノがあることか。
恐ろしきは、これらはみんな、元は【お金】だったということだ。
断捨離をすると、モノを買わなくなるというが、これを見たらさもありなん。
まだまだ断捨離の日々は続くが、捨てるか使うかの判断は、けっこう簡単なんだ。」
ところで飼い主。
油揚げは、もったいないと言いましたよね。
なら、冷蔵庫に入れっぱなしのボクのおやつ。
あれは、どうなるのですか?