先日、ご近所に引っ越してきた人がいる。
しばらく空き家だったところだが、この辺ではよくある、なかなかの構えの家だ。
入ったのは男性、永住者ではないそうで、一時的な住まいとして借りたらしい。
その家を取り囲むご近所は、ボクんちも含み、犬を飼っているところばかりだ。
この2.3日、あちこちで犬が吠えまくっている。
それはそうだろう。
ボクら犬族の嗅覚は、極めて優秀だからね。
嗅ぎ慣れない臭いには、ことさら敏感だ。
臭いの入れ替りがほとんどないこの田舎で、新しい臭いは警戒するんだ。
ましてやボクは、男性は嫌いだ。
ボクは、普段はこのように平和だ。
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宅急便や生協のおニイさんが来ても、怪しくないとわかっているから、チラ見するだけで番犬の任務は放棄している。
そんなボクでさえ、昨日から、特に夕方の散歩に出てその家の前を通るときは、フガフガ興奮して前足を上げ、力強く吠え続けるんだ。
「イタ君も、吠えることがあるんだね❕」
何事かと、庭にいたお隣さんは、絶叫するボクに驚いていた、というより笑っていた。
吠え出したときは、飼い主でさえ、ボクをコントロールするのに大変だった。
「さすがは、オスの柴犬だわ。
これだけ吠えまくって、けっこう迫力あるわ。」
ボクは、飼い主に誉められたのだろうか?
体重が11.3Kgもあるオスだから、ということは、関係ないと思うが。
散歩から帰っても。
いつもは、夕ご飯を食べたらサッサと小屋に入って、【本日は終了しました】オーラを出すのだが、今日は、ずっと例の家の方角を向いて、唸ったり吠えたり、しばらく落ち着かない。
ボクが小休止すれば、別の家の犬が代わりに吠えたりして、なかなか静かにならない。
「なんと。
カエルならぬ犬の輪唱だ。
困ったなあ。
近所迷惑だが、みんな犬のいる家だから、それはまあお互いさまだ。
伊太郎が騒がしく吠えたのは初めてだし。
しかし越してきた人のために、明日からはやたら吠えてはならぬ。
馴染みのない臭いや生活音には、じきに慣れるだろう。
そしたら、伊太郎、いつまでも吠えるのは、流行遅れだからね。」
飼い主は、変な理屈でボクを諌めた。
ボクは、1時間ばかり吠えていたが、やがて疲れて静かになった。
そういえば、お隣さんが、気になることを言っていた。
「うちの子も、ビビりだから吠えるのよ~。」