飼い主は、いつも通り実家の見回りに行く。



仏壇のお水を取り替え、しばし正座して父母の写真を見つめる。



このところは、掃除もしない‥‥その必要もない‥‥家の中は、何一つ動いておらず、全く変わらない。



しかし外側を回れば、少しは変化しているものがある。



「梅の木に、花が付いている。

いや、梅が咲いたという当たり前の言い方が、とっさに浮かばなかった、ハハハ。」





飼い主は、苦笑いしながら、梅の木の周りを歩く。

ささやかな木でも、あちこちに張り出した枝は多く、1周ちょうど10歩だ。







枝につく

小さな梅の

花の元

ぎゅっと結んだ

中に濃い紅








背景が

埃を吸った

不織布の

ような空でも

梅に色あり




「見れば見るほど【いとをかし】かな。

梅は、さっき思ったように、枝にいきなりくっついている感じだ。

私の腕のようなぼけー、年季の入った風情の枝にさえ同じ花を咲かせる。

世の中には色々な花、それぞれの花。

チューリップは、茎も葉もはっきりしていて、子どもがお絵かきに選ぶ【お花】は、まずチューリップだ。

梅の花は、正しく見られる機会は少ないなあ。



人は梅を、だいたいは見上げて花を観賞する。

チューリップは、見上げられることはない。

だがもし、梅とチューリップが同じ場所にあったら、どちらに視線がいくだろうか。」

飼い主があれこれ考えているうちに、雨が落ちてきた。





ぽつぽつり

小さな花は

雨を受け

落ちはせぬのに

梅の木の枝




ひっそりと

暦進めば

梅の花

詠む父はなく

啓蟄の雨





この梅が

実家(さと)にあるから

父母よりも

生きているから

立ち去れなくて