沼津の千本浜。

海は久しぶりだ。





しかし長居はできなかった。




風が強すぎて、ボクはすぐさま拒否柴に。





飼い主の、アゴ紐付きの帽子は、一瞬ですっ飛ぶ。




まともに歩けないくらいの風だ。




「最初、海を目の前にしたら津波のことを考えてちょっと怖かったが、こうして光る海原を眺めていると、海が豹変するわけない、なんて思えてしまう。
海は、あくまでも心を平らかにしてくれるものだと感じてしまうなあ。


たゆたう、だっけ。
そんな優しげな言葉さえ思い出す。」




飼い主は、堤防の上に座って、ゆっくり存分に眺めていたかったようだが。
諦めは早い。
「座ったら、転がり落ちる。」



ボクは、反対方向を向いて踏ん張る。










滞在わずか20分。


ボクはホッとしている。
車の助手席のクッションにアゴをのせて、絶妙な揺れに身を任せて居眠りする。
これぞ極上の、垂涎の怠惰。






途中、飼い主はロイホで、一人パフェ。
いつものチョコレートファッジサンデー。



しかしここも、滞在わずか15分。
どんだけ早いのか。
ボクのことなら、車内で待つ時間は苦にならないのに。


飼い主は、いつも自分由来の強迫観念を震源地とする、時間の津波に追われている。

  

枷(かせ)強し