このところ、朝の散歩が早い飼い主は、昼寝を心がけている。

グーグー寝られるタイプではないから、横になって目を閉じ、ウトウトできれば上等なのだそうだ。





「シエスタという習慣をもつ国がある。それはそれで、いいことだ。特に夏は、暑さで体力が減るし」

そんなことを考えながらうつらうつら、心地よい傾眠に身を委ねようとしていた飼い主の耳元で、ブィーブィーと無粋な音。





「雨雲アラームか」

飼い主がスマホに入れているウェザーニュースは、雨雲が近づいていることを、イチイチ親切に知らせてくれる。

音を聞いたら、雨か、とシンプルに思って見ないで終わりにすればいいのに、飼い主もイチイチ律儀に確認する。





「サーッと、本格的な雨のようだ」







飼い主は言う。
「お知らせの表現が細かい。これは日本人なら、自然に受け止める」




日本人ならではだと。
するとついつい英語表現を考えてしまう飼い主。
「今まで、色々な英語の学習の場で、雨の話題になると必ず、英語にはその表現が、日本語に比べて格段に少ないという話が出た。
日本人は、四季折々の自然を繊細に感じとり、言葉を作り出してきた民族。
英語には、例えば小雨が降っても、何種類もの感覚的に分けられた雨の違い、つまり受け止め方の違いというものが、あまりないかも」





そういうね。
英語圏の人々は、雨に関する表現どころか、雨が降っても傘もささずに気にしない、なんて。





小雨。
light  rain
fine  rain
小ぬか雨が、drizzle
とりあえず、こんなもので用が足りそう。




「先ほどの、サーッと降る、という表現は、
murmurを使ったりするようだ。
with  a  faint  murmurか。
かすかな音とともに、では単なる描写で、雨の種類を表す名詞ではないなあ。
faintを足すと、ほのかに、ぼんやりした様子が加わるが、なんかこれは、ただボカした感じ。
うー、どうかね」




murmurは、かすかな音。
飼い主がブツブツつぶやいているのは、まさにこの言葉の意味だ。






「It  rains  quickly.なんてのもある。
ちょっと変わってしまうのではないか。
サーッが、ザーッ、に。
ストレートすぎるわ」




飼い主、ならばstraightをそのまま使えばいいのでは?
雨が、サーッとひと降りするときは、まっすぐに降ってくるんだし。
これを使えば、「本格的に」の部分もカバーしませんかね。




「本格的な雨という表現も、天気予報でよく聞くが、考えてみたらおかしなものだ。
本格的でない雨があるから、対比されるんだ」




本格的か。
雨が雨らしく降る。
柔らかくもなく、ぶつかるものに音をたてて。





「誰もが、どちらかというと、ガッカリする雨だ。
雨によるマイナス面が、受け取る感情では優っている」




それより飼い主。
雨のことばかり考えていては、昼寝の時間がなくなりますよ。
サーッと降ろうが、パラパラ降ろうが、降ることには変わらないでしょ。




「さっきから起きて外を見ていたが、結局、雨はサーッとも降らなかったではないか?
ハズレだ。
ならば、これも日本人お得意の、確定を避けた表現に変えられてしまわないか?」




ああ、【○○地方が梅雨明けしたとみられる】、みたいなヤツね。
でも、毎日毎日、雨がサーッと降るかも、なんて曖昧なお知らせばかり流していたら、意味ないです。







人間は、イチイチ大変だねえ。
ボクは、雨が降り出したら、空を見上げればいい。
濡れたら、体を振ればいい。




「まあね。伊太郎みたいに、傘も要らないと楽でいいわ」





そうスかっ!