まもなく、実家での仮住まいに入る飼い主だ。
周りの人は、実家にいられるなら楽だねえ、茶碗と箸だけ持ってけばいいんだから、などと簡単に言うが。
「まさか❕
ちっとも楽じゃないよ❕」
と飼い主は反発する。
まあ。
確かに。
そうだねえ。
茶碗と箸だけ、というのは、荷物が少ないことの例えであるのはボクにもわかるし、実際、本当にそれだけの支度で引っ越すことは、あながち不可能ではない。
飼い主のようにしなければ。
今日も飼い主は、実家に行っていた。
何をしていたかと言うと、押し入れの掃除だ。
父が使っていた部屋に、飼い主は少しずつ寝具や身の回り品を運び込んであったが、まだそれを押し入れにはしまっていなかった。
畳に積み上げたままだ。
先日飼い主は、この部屋に白いカビが発生しているのに気がついた。
このところの高温多湿で、閉めきりがちな家は、すぐに残念なことになる。
「人が住まないとダメになる、っていうのは、こういうことだ。
父母が暮らしていた間は、畳にカビなんてつかなかった。
窓の開け閉めをして風を通していたし。
年寄りの世帯で、母はすぐにモノを捨てる人だったから、こざっぱりとして風通しはよかった。
古いながらも、まあまあに過ごせていたんだ。
それが、ちょっと私が荷物を運び込んだままにしていたら。
この有り様よ。
畳はすぐに除菌シートで拭いて、晴れればあちこち開けたりエアコンで除湿してるけど。
父の布団や毛布は、とっくに処分したから、押し入れはほぼカラだった。
それでも湿気臭いカビ臭い。
スノコにホコリが付いてる。
私は耐えられん。
とても布団や服をしまう気になれない。」
ということ。
この点を気にしない人なら、茶碗と箸のお気軽セットで移って来られるわけだ。
飼い主はスノコを出して拭き上げ、押し入れの中全体を、ウエットワイパーでゴシゴシ汚れを取る。
ウエットシート1袋は、すぐになくなった。
汗を滴らせて台所に入ると。
驚いたことに、動かないゴキブリが1匹。
死後間もないものと思われる。
「なんと。
まだここで、何も料理していないのに。
ゾッとするわ。」
飼い主は、ゴキブリには動じないので、念のため殺虫剤をかけ、紙にくるんで捨てた。
そして色々想定していた飼い主は、別の【ソレ用】の小さなスプレーを出して、さらなるG防止に余念がない。
「ホント、楽じゃない。
1年前までの生活の痕跡の後始末の上で、今の
生活そのものを移すんだから。
実家といっても、至れり尽くせりの宿とは違う。」
あー、今日も暑い暑い。
ボクは、家の中でエアコンの風にあたり、うとうとしている。
飼い主、引っ越し先では、このような楽な生活は、保証されますか?