モリノセカイはミチノセカイだよ。
僕の住むこの森もよくわからない真理ばかりで
構成されているんだもの。

一つのお話をしてあげる。
おばあさんが教えてくれた森の言い伝えの話だよ。

「星の降る夜に流れ落ちたケッショウを五つ集めると願いが叶
う話」

みんなは星の降る夜だけは
フルハイに怯えながらも
ケッショウを探しに夜の森に入って行ったんだって。
何人も何人も大人達は
お互いに気をつけあいながら
森の中を、ケッショウを探して歩きまわったんだって。

「だけど、誰もケッショウを見つけることはできなかった。
そもそもケッショウを見たものもいないのに、
どんなものを探していいかわからなかったんだね。
誰がどこで知ったかもわからないような
本当かウソかもわからない話だもの。
それでも、誰も諦めずにケッショウを探すのをやめなかった。
ある者は帰らぬ想い人の帰りを願いたくて、
ある良き者は森のフルハイが二度と森に降らないように願うた
めに、
またある者はショウメツの慣習を目前に控えた息子を救うため
に、
みんなして探したものさ。
だけど、誰もケッショウを見つけることはなかった。」

星の降る夜には、
大人達がケッショウを探して彷徨うタイマツが森中を明々と燃
やして、
火が山に落ちるみたいにキラキラしていた。

そして、その夜も
大人達は連れ添いあって森にケッショウを探しにむかった。
ヒサヨメはその日、森に向かった。
もちろん、ケッショウを探すためにね。
ヒサヨメは森を去ったヒサテコの帰りを願って
ケッショウをどうしても探しだしたかった。
そして、深い森の奥に一人で入って行ったんだ。

通例、みな連れ立ちを組んで歩いていた。
暗いフルハイの森だからね。
みんな死と隣り合わせ、
びくびくしながらの宝探しだった。

ヒサヨメの想う気持ちは強く実直で
そのために一人ででも、
怖れてなどおられなかった。

「あたし、ミサキの方まで行きますわ。
だって、あそこが一番星に近い。
早くケッショウを見つけてあげないと
ヒサテコが帰って来られなくなる。」

そして、真夜中の森に一人で奥へ奥へと進んで行った。
森のみんなは引き止めた。
深い森で、もしフルハイにやられたら
死んでしまうかもしれないのに、と。

だけど、ヒサヨメは
ヒサテコに会えないで過ごす日々と自分の死では、
その前者のほうがよほどいとわしかったのだね。

ヒサヨメとヒサテコは、
それはもう仲の良い二人でね、
いつも睦まじく歌を唄って子ども達から好かれていたものさ。
やっと二人がそれぞれに大人になって、
一緒に暮らすことのできたという矢先に
創造主の君がヒサテコに
トナルクニへの昇格をお命じになったのさ。
トナルクニへ召される名誉。
(トナルクニは、星と星とほどの距離をこの森から隔てて居る
んだって。
それって、案外近い?)

だけれども、トナルクニとハイフルモリでは、
きっともう会えないと知っていたんだね。
二人は泣いた。
だけどヒサテコは言ったんだ。

「きっと、また会えるよ。
このモリを僕は忘れない。
だからきっとまた会いに来るよ。
そして、僕はきっと君を迎えに来るよ。
約束をしよう。」

そして、ヒサテコはヒサヨメに
コヨチの花の首飾りを渡したんだね。

「これを僕だと思って、いつも身につけていて。
僕はこのコヨチの葉を胸にさして持って行こう。」

そして、ヒサテコはトナルクニへ行ってしまった。
ヒサヨメは待っていた。
だけど、幾たびモリにハイが降っても、
ヒサテコはそれから二度と帰ってくることはなかった。
ヒサヨメは心配していたさ。

「大丈夫かしら?
どうして帰ってこないのかしら?
あたしのことを、
このハイフルモリを
忘れてしまったのかしら?
もしかしたら帰り道が
わからなくなってしまったのかもしれないわ。」
そして、ヒサヨメはケッショウ探しに加わるようになったんだ
ね。

星の降る夜が終わり、
夜と朝が入れ替わっても
ヒサヨメは帰って来なかった。

モリのみんなはヒサヨメを探した。
もしかしたら、まだ生きているかもしれない。
あるいは、どこかでモリのみんなを待っているかもしれない。
そして、誰かが言ったんだね。

「ミサキにいるかもしれないわ。
きっと、ミサキにいるわ。」

モリのみんなはミサキにむかった。
ケッショウを探すよりも必死のように
願いながら
みんなしてヒサヨメを探したんだね。

そして、ミサキでみんなはヒサヨメを見つけたんだ。

ミサキの向こうは真っ暗の空のように広がるミズウミだった。
そのミズウミを臨みながら
ヒサヨメは立っていた。

コヨチの首飾りを右の手に振りかざしたまま
左の手には光るケッショウを四つ持っていた。

「ヒサヨメ!」

叫ぶように名前を呼んでも
ヒサヨメは答えなかった。
動きさえしなかった。

そして、モリのみんなは知ったんだ。
フルハイを飲み込んで
ヒサヨメは死んでしまったのだと。

ミズウミに向かって大きく口をあけたまま、
涙を流しながら死んでいったんだね。
きっと、ヒサテコを呼びながら
泣いていたんだね。

ケッショウは小さくだけどキラリルと光って
まるくて透明だった。
タイマツの火よりも明く
ミサキを照らしていた。

ケッショウはあと一つで、
ヒサヨメの願いを叶えたのに。
みんなはヒサヨメを泣いた。

そして、もう一つのケッショウを見つけたら必ず
ヒサヨメの左手に置いてあげようと
大人も子どもも、
みんなしてそう決めた。

だけど、それから
星降る夜にどんなにどんなに探しても
ケッショウが見つかることはなかった。
誰も、ヒサヨメがケッショウをどうやって
手に入れたのか知らなかった。

だから、今も
ミサキはいつも、
ハイフル夜でも明るく
ケッショウがヒサヨメの左手の上で光っていて、
コヨチの首飾りを右手に振りかざしたまま、
ミズウミに何か叫んだままの
ヒサヨメがそこに石みたいに固まって立っているんだ。

「誰もケッショウがどんなものなのか知らない、と言ったね。
だけど、あたしはあれが何か知っているよ。
そして、それをあの子がどうやって手に入れたのかも。
そもそもケッショウは
星降る夜のあの星の輝きを吸い込んだ
あの子の涙だったのさ。
フルハイを肺に吸い込み
けふりけふりと咳き込みながら、
あの子はあのミサキで
トナルクニのヒサテコを呼んで
泣いていたんだね。
その涙が左手に落ちて、
そして、星がその涙に落ちてケッショウ化したのさ。
だけど、5粒目の涙がこぼれ落ちるよりも先に
あの子はフルハイが鋭く肺に突き刺さって
むなしくなりぬ、というわけさ。」

風が吹いてモリの木々を揺らす度に
コヨチの首飾りが
ヒサヨメの右手でゆらるゆらりるらりと
風を受けるんだ。
コヨチが揺れると
僕らは星が降るのを知る。
風が強い日には、星も風に揺れて落ちてきやすくなるんだって


おばあさんが
僕に話してくれた
(コエは出ないから、
おばあさんは
絵を描いて教えてくれたんだ。
その時のおばあさんは、
なんだか悲しいみたいな顔をしていて、
僕もココロがつんと痛かった。)
お話はこれで終わり。

おばあさんは何でも知っている。
モリの大人が知らないことでも
なんでも知っているんだよ。

例えば、創造主の君がこのモリを作ったときのお話とか、
モリの秘密の真理とか、
アオイチゴのジャムの作り方とか。

そのお話はまた今度してあげる。
おばあさんにはコエがないから、
僕がかわりにお話ししてあげるよ。

だけどね、
今日はもうくたびれたから
しんとフルハイがきらきらするのを見ながら
もう寝ちゃう。
るる。るーるるる。るるるるるる。