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   一般的に言えば、ほとんどの場合において、遺言者が、ご自分の家族関係や状況をよく頭に入れて、それにふさわしい形で財産を承継させるように遺言をしておくことが、遺産争いを予防するため、また、後に残された者が困らないために、必要なことであると思います。
   とりわけ、次の①から⑦までのような場合には、遺言をしておく必要性が高いといえるでしょう。

  1.    夫婦の間に子供がいない場合
       子供のいない夫婦のうちご主人が死亡した場合で、その両親がすでに亡くなっているときは、法定相続によると、亡夫の財産を、妻が4分の3、亡夫のきょうだいが4分の1の割合で分けることになります。
       しかし、長年連れ添った妻に全財産を相続させたいと思う方も多いでしょう。そうするためには、遺言をしておくことが必要なのです。きょうだいには、遺留分がないので、遺言さえしておけば、全財産を大切な妻に残すことができます。
  2.    再婚をし、先妻の子と後妻がいる場合
       先妻の子と後妻との間では、血縁関係がなく、とかく感情的になりやすいので、遺産争いが起こる確率が高くなるといえます。争いの発生を防ぐため、遺言で相続分をきちんと定めておく必要性が特に高いといえるでしょう。
  3.    長男の嫁に財産を分けてやりたい場合
       長男の死亡後、その妻が亡夫の親(例えば、あなた自身)の世話をしてくれているような場合には、亡長男の妻(嫁)にも財産を残してあげたいと思うことが多いと思いますが、嫁は、相続人ではありません。民法の改正によって特別の寄与の制度が認められるようになりましたが、その制度に基づく場合には、お嫁さんが、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭の支払を請求し、当事者間に協議が調わないときなどは、家庭裁判所に協議に代わる処分を請求する手続をしなければなりません(民法1050 条)。そのような遠回しな手続をしなくても、お嫁さんに遺贈する旨の遺言をすることによって、財産を分けることができます。
  4.    内縁の妻の場合
       長年、夫婦として連れ添ってきても、婚姻届を出していない場合には、いわゆる内縁の夫婦となり、内縁の妻には相続権がありません。内縁の妻に財産を残してあげたい場合には、必ず遺言をしておかなければなりません。
  5.    家業等を継続させたい場合
       個人で事業を経営したり、農業を営んでいたりする場合などは、複数の相続人に分割してしまうと、経営の基盤を失い、事業等の継続が困難となります。このような事態を招くことを避け、家業等を特定の者に承継させたい場合には、家業の維持に必要な資産を事業承継者に相続させ、他の相続人との間では代償金で公平を図るなど、きちんとその旨の遺言をしておかなければなりません。
  6.    家族関係に応じた適切な財産承継をさせたい場合
       上記の各場合のほか、① 特定の財産を特定の相続人に承継させたいとき(例えば、不動産を相続人の共有にしますと、将来、処分する際に、共有者の協議を要することになります。)、② 身体に障害のある子に多く相続させたいとき、③ 老後の面倒を見てくれた子に多く相続させたいとき、④ かわいい孫に財産を残したいときなどのように、遺言者のそれぞれの家族関係の状況に応じて、財産承継をさせたい場合には、遺言をしておく必要があります。
  7.    相続人が全くいない場合
       相続人がいない場合には、特別な事情がない限り、遺産は国庫に帰属します。このような場合に、① 特別世話になった人にお礼として財産を譲りたいとき、② お寺や教会、社会福祉関係の団体、自然保護団体、またはご自分が有意義と思われる各種の研究機関等に寄付したいときなどは、その旨の遺言をしておく必要があります。