私の父は70代後半になってから
アルツハイマー病と診断されました。
わざわざ遠いのに母が京大病院まで連れていって
診て貰ったのだから間違いありません。

と言っても当時の父は、階段の電気を消し忘れたり
怒りっぽくなったくらいで
日常生活に支障をきたす事はありませんでした。

母にしてみれば自分の父親がボケてしまい
介護に苦労したので
早めに父を専門の病院で診て欲しかったのだと
思います。

病院で貰ったアリセプトと言う薬を毎朝
父は自分で忘れずに飲んでいました。
結局父はそれから亡くなるまで10年以上
同じ状態で、全く進行しませんでした。

高齢になってから、好き嫌いが酷くなったり
あまり食べなくなったりしましたが
年のせいもあるだろうし
トイレも風呂も全部自分一人で
やっていました。

そんなアルツハイマー病の割には
普通の生活をしていた父でしたが
急に記憶が無くなってしまった事がありました。

父と母はつまらない事でしょっちゅう
口喧嘩をしていたのですが
その日も母と言い争った父は
何も言わずに外へ出て行きました。

普段からよくフラフラと出ていっては
タバコやジュースを買って来たりしていたので
始めはそんなに心配はしなかったのですが
流石になかなか帰って来ないので心配になり
皆んなで手分けして
自転車で探し回りました。

歩いて行けそうな所は殆ど探したのに
見つからないので
交番へ行って捜索願いを出しました。

それからも、夜遅くまで探したのですが
見つからないので
財布持ってたら何とかしてるやろと
言いながらその日は諦めて帰りました。

ところが次の日になっても帰ってくる事もなく
警察からもなんの連絡もありませんでした。
母と私は近くに居ないみたいやから
電車乗ってどこか行ったのかなあと言いながら
父が行きそうな所へ行ってみました。

行くとしたら昔住んでいた大阪市内やろ
と言う訳で、天王寺公園や一心寺さんの
近くまでウロウロ探し回りました。

でも当てもなく探しても
見つかる筈がありませんでした。
仕方なく家へ帰りまた自転車で遠くまで
探しに行ったり、じっと待っている事など
出来ませんでした。

次の日、母は私にちょっと京橋まで行こうと
言いました。
私は今度は京橋から大阪城まで探し回るのかと
思いましたが、そうでは無かったのです。
母は仲の良い友達と一緒に、
京橋の占い師によく占ってもらい
それがよく当たるので
おじいちゃんがいつ帰ってくるか
占って貰うからついて来てと言いました。

私はそれで母の気が済むならと思い
付いていきました。

女の占い師さんは父の名前や生年月日を
聞いたくらいで何を占って欲しいのかを
尋ねたと思います、はっきり覚えていないので
すみません。
占い師さんは2~3日中に自分で家へ
帰ってくるので心配しなくて良いと言いました。

それを聞いて母はすっかり信じてしまい
とても元気になったのを覚えています。
普段あんなに喧嘩ばかりしているのに
おかしいなと思いました。

それから3日後、
父は本当に自分で勝手に帰ってきました。
かなり痩せてやつれてましたが
しっかり歩いて帰って来たのでした。

父は財布も持たず家を出たみたいで
何も食べて無かったみたいでした。
父はあの日ずっと歩き続け
夜にどこかの公園で寝たと言ってました。

父の言ったことは
頭がボウっとしてはっきり思い出せない
よく分からないがホームレスの人が
新聞を体と服の間に入れたら寒ないから
と教えてくれた
水は公園の水を飲んでた
何してたか分からんかったけど
今日の朝、気がついた
ワシどこにおるんや、何でこんなとこおるんや
はよ家帰らな皆んな心配してるわ
そない思て、歩いて帰ってきた


中之島公園から家まで、電車でも20分は
かかるところです。

80才前後だったと思います。
そんな父が5日間なにか食べたかそれさえ
記憶がなく歩いて家まで帰ってきてくれた。
体重凄く減っていたので
多分何も食べてなかったのでしょう。

凄い生命力の父に脱帽でした。