人類の夜明けから月面そして木星へ

の旅を通し、謎の黒石板「モノリス」

と知的生命体との接触を壮観かつ哲

学的な映像で描いていくSF映画の

金字塔と称される名作。監督はスタ

ンリー・キューブリック。1968年

公開。


謎の物体モノリスに影響を受けた猿

人は、動物の骨を武器として使うこ

とを覚える。場面は変わり人類が月

に住むようになった時代、木星探査

に向かうディスカバリー号で人工知

能を備えたコンピュータHAL9000

に異変が起き、ボウマン船長は危機

に見舞われる…。


オープニングは最高に壮観な幕開け。

無音で真っ暗な映像が続いた後、一

筋の光が横に伸びていき、やがてそ

れは宇宙に浮かぶ丸い大きな星の向

こうから太陽が昇る場面であること

が分かる。バックに流れるのは、R

・シュトラウスのあまりにもドラマ

チックな「ツァラトゥストラはかく

語りき」。更に「2001: A SPACE

ODYSSEY」のタイトルバックが浮

かぶ流れはいきなり心を鷲掴みする。


本編の始まりは「人類の夜明け」か

ら。広大な荒野や夜明け、ゴリラ・

イノシシ・ヒョウ・シマウマなど動

物の生存競争の様子が続く。やがて

縦長の黒板のような謎の物体モノリ

スを猿人たちが発見。最初は恐る恐

る触って確かめるだけだが、それに

感化されたのか猿人は動物の骨を道

具や武器として使い始める。動物を

倒してその生肉を食べたり、別の猿

人の群れと戦い、水場をめぐる争い

に勝つ。猿人が喜んで白い骨を上空

に投げると、それは時空を超え、宇

宙に浮かぶ軍事衛星に変わる。それ

は月面の基地に人間が常駐する近未

来の世界。ここでの主役はアメリカ

宇宙評議会のフロイド博士。特別な

任務で月に向かう途中、宇宙ステー

ションで他国含む飛行士と交流する。

声紋識別を経てステーションに入り、

地球にいる娘とテレビ電話で会話。

内部は先進的なデザインで床・壁・

天井まで白い部屋に赤い椅子が並ん

でいる。宇宙食はチューブで味わっ

ているがチキン味やトウモロコシ味

など選べる。無重力状態で上下逆転

し、天井を歩く女性の姿も。ソ連の

科学者たちと懇談した際にアメリカ

の月面クラビウス基地で異変が起き

ているようだがと尋ねられるが答え

られないと穏やかに回答を拒否。ク

ラビウス基地に向かうフロイドの極

秘任務は月のクレーターで発見され

た謎の物体TMA-1(モノリス)の調査

だったのだ。宇宙飛行のバックに流

れるのはJ・シュトラウス2世の優

雅な「美しく青きドナウ」。基地に

着いたフロイドは現地の会議で、こ

れは科学史で最も重要な発見かもと

同僚たちに述べる。400万年前に埋

められたモノリスを調査し、公表の

時期や方法を決定するのでそれまで

は秘密保持をと。モノリスに触れる

博士の行動は人類が文明を築く前の

猿人と同じで面白い。だが太陽光を

浴びてモノリスは不穏な異音信号を

発し始める。


物語は中盤に入り、18ヶ月後、木

星探索に行くディスカバリー号に場

面は移る。5人のクルーのうち3人

は冬眠して出発。あとはボウマン船

長とプール副船長、頭脳は最新の人

工知能HAL9000型コンピュータ。

ここでは乗組員が電子チェスや家族

とテレビ電話を楽しむ様子や、壁を

走ってトレーニングする姿も。

ところが飛行中、ハルがボウマンに

何か腑に落ちない、任務に不安があ

ると吐露。そして船の一部部品の故

障を告げる。プールが船外活動用の

カプセル型スペースポッドに搭乗し

て船外作業でその部品の回収に赴く。

船外の宇宙は静寂に包まれ、外は満

天の星。だが流れ隕石が飛んでくる

こともある。プールが部品を回収し

点検するが異常は無い。ハルが故障

予測を誤ったものと管制センターは

結論付けるが、完全無欠のハルがミ

スするのはおかしいとハルの異常を

疑ったボウマンとプールの2人は、

ハルに聞かれないようポッドに入っ

て密談し、ハルの高等中枢回路を切

断して思考機能を停止させることと

する。しかしハルは2人の動きを読

唇でで察知。この辺りから映画はハ

ラハラドキドキのスリリングな展開

に変わっている。ハルの反乱により、

船外活動中のプールは宇宙服を繋ぐ

ワイヤーを切断されて宇宙を漂流。

船内にいたボウマンが気づき、別の

ポッドに乗りプールの救出に向かう。

ポッドに付いているアームで漂流す

るプールの遺体をボウマンが回収し

ている頃、冬眠中の3飛行士のコン

ピュータに故障が発生。何とハルが

3人の生命維持機能を停止させたの

だ。更に驚くことに、プールの遺体

を回収して帰還しようとしたボウマ

ンに対し、ハルは入船を拒絶する。

ボウマンがハルに理由を聞くと「私

の回路を切断しょうとした」からと。

ボウマンは止むを得ずプールの遺体

を放し、自由になったアームで非常

用エアーロックを手動にした上、ポ

ッドの自爆装置を起動してハッチを

爆破してヘルメット無しで突入、無

事に船内に帰還する。ボウマンは直

ちにハルの機能を停止させるべく、

ユニットを取り外していく。ハルは

「怖い、止めてお願い」とボウマン

に嘆願し、歌まで歌うがやがて動作

を停止。すると出発前に撮影された

動画が流れ始め、その中にフロイド

が登場。「月で知的生命体が発見さ

れた。400万年前と同じ。木星に強

力な信号を送っていた以外は」と語

り、この木星探索の真の目的が明ら

かになる。


いよいよ映画は終盤へ。木星近辺で

浮遊しているモノリスが発見されボ

ウマンがポッドに乗って近づく。こ

こで流れるのは不安を煽る暗い音楽。

すると、色鮮やかな眩しい光線が次

々と照射され、ポッドは光に包まれ

る。幻想的で不可思議な異次元の光

景・映像だ。突然、宮殿風の白い部

屋に場面が変わり、部屋内にハッチ

と赤い宇宙服のボウマンが入れられ

ている。ボウマンが呆然と他の部屋

を巡ると、そこには年老いたガウン

姿のボウマンが一人食事をしている。

更には身体を動かせずベッドに横た

わる老衰したボウマンの姿。緩慢に

上に伸ばした腕の先には聖なる光に

包まれた知性的な面立ちの胎児がい

る。再びバックの音楽はクラシック

名曲に変わり、胎児が地球を見下ろ

す姿で幕を閉じる。解釈が難解な終

わり方と言える。


SFXを駆使した映像美、クラシック

音楽との融合、人類創世記から近未

来までの超長い時間軸で設定された

テーマとストーリー等、これが55

年前の作品かと思うと驚きを隠せな

い。キューブリック監督の発想の凄

さに舌を巻くしかない。重要な登場

人物ではあるが映画の主人公はフロ

イド博士でもボウマン船長でもない。

かと言ってモノリスでもない。文明

の発達によりコンピュータが最高レ

ベルの知能を持ち人を殺害するのは

大いなる警鐘で先見の明に富んでい

るし、もっと大きな、人類にとって

何が重要なのかといった壮大なテー

マを最も訴えたかったのではないだ

ろうか。