銀行を襲撃し大金を強奪したプロの

強盗とその妻が裏切りによって警察

やギャング一味に追われながら、メ

キシコに向けて二人で逃避行する姿

を描いた犯罪バイオレンス・アクシ

ョン映画。監督は鬼才サム・ペキン

パー、主演は名優スティーブ・マッ

クィーン。1973年公開。


服役中の銀行強盗ドクは、妻に政治

家と裏取引させ、予定より早く出所

する。取引の条件は銀行を襲撃する

こと。出所後、体よく銀行強盗を成

功させたドクたちだったが、予想だ

にしなかった裏切りの連鎖がドクを

襲う…。


映画はテキサスの刑務所で幕を開け

る。機械工場での労働や草刈りなど

収監された囚人たちは無表情で取り

組んでいる。ドクは強盗の罪で入所

して4年。模範囚だが申請した仮釈

放は認めらず、接見に来た妻キャロ

ルに、有力者の元締めベイノンに頼

むよう依頼する。裏取引で出所した

ドクは、キャロルと川べりの公園を

散歩し、二人で川に飛び込むなど自

由を満喫。ウイスキーを味わい、キ

ャロルと抱き合い、朝食を作り…。

フライパンから煙が上がっているの

に二人は夢中で唇を求め合っている。

しかし平穏な暮らしはそこまで。ベ

イノンとの裏取引は銀行強盗だった。

ベイノンは襲う銀行を指定し、実行

は2週間後。ルディなど仲間2名も

つけてくる。ドクとキャロルは銀行

の構造や従業員数、守衛の出勤時刻

などを下見して入念に計画を立てる。

犯行当日。開店直後の時刻を狙い、

マンホールから地下に忍び込み電力

を切断。警報は使えなくなり、首尾

よく50万ドルを強奪するが、仲間

が守衛を殺してしまったり、その仲

間をルディが足手まとい扱いして射

殺するなどハプニングも起こる。更

にルディは金を独り占めしようとド

クに銃口を向けるがドクは咄嗟に応

戦してルディを返り討ちにする。

ドクはキャロルを車に残してベイノ

ンと約束していた別荘で落ち合う。

ニュースでは銀行で75万ドル強奪

されたと報道しているが現金は50

万しかない。実はベイノンの弟がそ

の銀行の幹部で、不正に着服してい

た分も銀行強盗に遭ったことでもみ

消そうと企まれていたのだ。また、

ベイノンはキャロルからの裏取引の

依頼に応じた際に情事があったこと

を仄めかす。そこに銃を構えたキャ

ロルが登場。ドクはキャロルもベイ

ノンに抱き込まれたかと覚悟したが、

キャロルが撃ち殺したのはベイノン

だった。結局50万ドルを二人で手

にしたドクとキャロル。メキシコへ

の高飛びのため国境の町エルパソを

目指すが、ドクはベイノンとのこと

でキャロルを責め、二人にはわだか

まりも残る。


ここから先、映画の後半は二人の逃

避行。だが思いもよらぬ苦難が続け

ざまに降りかかる。列車で移動しよ

うとした矢先、キャロルが50万ド

ル入りの重いバッグをロッカーに入

れるのを手伝ってくれた男は置き引

き犯で、鍵のすり替えに遭いバッグ

が奪われてしまう。犯人はまだ駅に

いる筈とキャロルは男を探すが見つ

けられない。逆にキャロルを見て慌

てた男を怪しいと感づいたドクが男

が乗った列車まで追いかけてバッグ

を取り返す。キャロルの甘さに比し

てドクの鋭さが際立つ場面だ。合流

後、ドクはキャロルに別れを切り出

すが強く拒否される。この頃、実は

死んでいなかったルディは近隣の医

者夫婦を銃で脅して車を運転させて

エルパソに向けてドクを追いかけ始

め、ベイノンの弟も手下とともに出

発する。置き引き犯が警察に捕まり、

それによって50万ドルを持ってい

たドクは銀行強盗として指名手配さ

れる。ドクがある町でラジオを買お

うとすると店員に気づかれ通報され

るが、間一髪で威力が高いショット

ガンを銃器屋で調達し、パトカーを

ショットガンで破壊し、バスに飛び

乗って逃亡に成功。別の町ではドラ

イブスルーでハンバーガーを買った

ところをやはり通報され、警官らと

派手なカーチェイスになる。この後、

ゴミ置場のゴミの中に身を隠した二

人は警察の追っ手からは逃れるも、

ゴミ収集車の中に収容されてしまい

捨てられるという散々な目に遭う。

いくら何でも圧縮されたら絶命する

だろうと思うが、二人は割りとかす

り傷程度で済み、再び逃避行を続け

る。この時はキャロルがドクに愛想

を尽かすがドクはベイノンのことは

もう言わないと約束する。二人の関

係は微妙であるが、苦難の連続が仲

を固くする要因になっているようだ。


終盤、エルパソの安ホテルにルディ、

ドクとキャロル、ベイノンの弟らが

順に到着。ここでは壮絶な銃撃戦が

繰り広げられる。ルディがドクたち

を狙って襲おうとする場面はスリリ

ングでハラハラさせる。ただドクの

ショットガンが強力なのは分かるが、

ドクの弾は相手に当たり、ドクとキ

ャロルへの弾は全部外れるのは不思

議だ。

最後、敵を全員始末した二人は地元

の気のいい修理屋のオヤジのオンボ

ロのトラックに乗せてもらい、警察

の追跡もかわして逃げ切りに成功。

トラックを口止め料込みで3万ドル

で譲ってもらい、メキシコに向けて

走り去るところで映画は終わる。ア

メリカン・ニューシネマのように犯

罪者が最後に裁かれない終わり方は

意外と言えば意外だが、乾いた道路

の先に幸福が待っているのかは不明

だ。


主演のドク役のスティーブ・マック

ィーンは目が鋭くてニヒルだし、動

きもシャープでやはりカッコいい。

けれども、キャロルとベイノンのこ

とをかなり深く根に持ったり、意外

と堅実(ラジオは一番安いのを買お

うとしたり、ラストでトラックを買

う値段も小出しにする)だったり、

列車内では悪童に水鉄砲で顔に水を

かけられたり、あげくの果てにはゴ

ミ収集車でゴミまみれにされたりと、

カッコ悪かったり人間臭さが露わに

なる役で興味深い。キャロル役のア

リ・マッグローはエキゾチックな顔

立ちが綺麗だ。あとルディはやたら

憎たらしい。そのルディに連れ去ら

れる医者夫婦も気の毒だが、妻の方

が徐々にルディを受け容れてしまい、

それに耐えられなくなった医者の夫

が首を吊ってしまうのは残酷。妻役

のサリー・ストラザースの豊満さと

堕落的な面は結構強烈。

犯罪者には最後に罰が待ち受けるの

はアメリカ映画の常道だが、ドクと

キャロルが死なずに映画が終わるの

は、あれだけ殺してもその相手はギ

ャング一味だけだからというのはあ

るのだろう。