本鬼頭と分鬼頭、網元の二大勢力が

対立する瀬戸内海の孤島・獄門島を

舞台に、封建的な古い因習が強く残

る中、終戦直後の引き上げ船で死ん

だ鬼頭千万太が案じた通り、俳句に

見立てた怪奇な連続殺人事件が起こ

る名探偵・金田一耕助シリーズのミ

ステリー映画。原作は日本推理小説

界の巨匠・横溝正史。監督は市川崑、

出演は石坂浩二、大原麗子ら。

1977年公開。


三人の義妹の行く末を案じながら死

んだ鬼頭千万太の通夜の日に、第一

の事件が起こった。末娘・花子が梅

の古木に逆さ吊りにされ殺されてい

たのだ。続いて二番目の妹・雪枝が

寺の鐘の中で死体となって発見され

る。そして遂には…長女・月代まで

もが残酷な死に様を残した。いった

い誰が、何のために? この猟奇的

な事件を追う金田一は、千万太の父

・嘉右衛門の残した三つの俳句の謎

につきあたる。この見立て連続殺人

の意味するところは-。そして真犯

人は?


映画の冒頭は、“獄門島”という忌わ

しい島名の由来の解説から始まる。

遠く平安時代の伊予海賊や江戸時代

に流刑地とされたことなど諸説があ

るが、島民の殆どは海賊と流人の子

孫であるとの不吉なオープニングで、

今の時代であれば完全な差別だろう。

そして物語は昭和21年、獄門島に

本土から連絡船で渡ろうとする金田

一耕助が復員服姿の男と行き交う場

面で始まる。港の波止場で金田一は

了然和尚や村長など島の有力者たち

と出会い、自分が鬼頭千万太の訃報

を知らせに本鬼頭を訪ねることを伝

える。本鬼頭に着いた金田一は早速

千万太のいとこ早苗や義妹の三姉妹、

分鬼頭のおかみ巴、女中の勝野、気

が違えて座敷牢に閉じ込められてい

る千万太の父・与三松など主要登場

人物と対面。また宿となる千光寺の

居室で衝立に貼られた芭蕉・其角の

3首の俳句を目にし、島の床屋では

居合わせた駐在から千万太の祖父で

絶大な権力を誇ったという先代・故

嘉右衛門や本鬼頭と分鬼頭の関係な

ど島の事情を仕入れる。早苗が千万

太と同様に戦争に取られた兄の一の

復員を心待ちにしていること、巴が

分鬼頭を乗っ取ろうと企んでいるこ

とも。義兄の訃報が届いたというの

に華やかな振袖姿で百花繚乱の三姉

妹の白痴的な様子や、与三松の凶暴

ぶりと何をするか分からないと思わ

せる病状、それを鎮める早苗など異

様な描写は強烈で画面に一気に引き

込まれる。不安な表情を帯びながら

も芯がしっかりした和服姿の早苗の

古風な美しさにも目が釘付けになる。


金田一が到着した夜から、三人娘の

連続殺人が始まる。それもただの殺

人ではなく、梅の木に死体を逆さ吊

りにしたり、地面に置かれた重い鐘

の中に死体を入れて振袖の裾だけ鐘

の外にはみ出させたり、死体の上に

萩の花びらを振りまいたり…。

また正体不明の復員服姿の男が島に

潜伏していることが判明、更に与三

松が座敷牢から放たれたり、金田一

が分鬼頭の当主・儀兵衛から千万太

の父が旅回りの女役者・お小夜を妾

にして三姉妹を産ませた過去を聞か

されるなど、島を巡る情勢は混迷を

深めていく。金田一は事件の真相に

辿りついた時はもう時遅しであった

が、古い因習に根差した事件の動機

や死体に事後に施された処置が俳句

に見立てたものであることが判明す

る場面は戦慄を覚える。そして全て

が終わった後に判明する、一の生死

に関する連絡はあまりにも因果深く

残酷だ。


全編にわたり前時代的な雰囲気と人

間の業の罪深さが出ていて映画は良

く出来ているが、日本推理小説史に

偉大な足跡を残すこの傑作長編の素

晴らしさは、2時間半程の映像では

十分に表現できるものではない。原

作を読むとこの作品の舞台設定やト

リックの奇抜さ、主要トラック以外

にも多くの伏線が散りばめられた構

成など練りに練られているのがよく

分かる。本映画では原作から一部共

犯者を変更しており、その生い立ち

に関する不幸な描写が入って涙を誘

う面が増えているが、その分、原作

本来の封建的な因習の恐ろしさが薄

まっているのは惜しい。


主演の金田一役よりも脇役の俳優た

ちの演技力の方が目立ってしまうの

は、それだけ事件の関係者が奇異な

役回りを演じているからだろう。了

然役の佐分利信、嘉右衛門役の東野

英治郎、儀兵衛役の大滝秀治、巴役

の太地貴和子、お小夜役の草笛光子

などはやはり迫真。勝野役の司葉子

が女中にしては美人過ぎなのはやむ

を得ないが、早苗役の大原麗子の美

しさや可憐さはやはり特筆もの。三

姉妹の長女役の浅野ゆう子と床屋の

娘役の坂口良子はまだ売れる前だっ

たのだろう。他にも床屋役の三木の

り平や使用人役の小林昭ニもいい味

を出している。