ヴィクトル・ユゴーの同名小説(邦

題:ああ無情)を原作としてロンド

ンはじめ世界各地でロングラン公演

されているミュージカルを映画化し

た、イギリス・アメリカ合作のミュ

ージカル映画の傑作。2012年公開。

 

ジャン・バルジャンは、パンを盗ん

だ罪で19年間服役した後、仮出獄

するが、生活に行き詰まり、再び盗

みを働いてしまう。その罪を見逃し

てくれた司教の真心に触れた彼は、

身も心も生まれ変わろうと決意し、

過去を捨て、市長となるまでの人物

となった。そんな折、不思議な運命

の糸で結ばれた女性ファンテーヌと

出会い、愛娘コゼットの未来を託さ

れたバルジャンは、自分を執拗に追

いかける警部ジャベールの追跡をか

わしてパリに逃亡する。月日は流れ、

コゼットは美しい娘へ成長した。し

かし、パリの下町では革命を志す学

生たちが蜂起する事件が勃発。誰も

が激動の波に呑まれていく…。

 

舞台設定は貧困と格差の苦しみにあ

えぐ民衆が自由を求めて立ち上がろ

うとしていた19世紀のフランス。

ストーリーの軸となるのは、憎しみ

に満ちていたバルジャンが、司教の

慈悲に触れて心を入れ替え、若くし

て哀れな最期を遂げたファンテーヌ

の娘コゼットに無償の愛を注いでい

く姿であるが、彼のあまりにも過酷

な運命の中で交錯する多くの登場人

物たち、特にファンテーヌとコゼッ

ト母娘、コゼットと結ばれるマリウ

スやその仲間の革命を志す同志たち、

バルジャンを執拗に追うジャベール

警部などが直面する哀しみや苦悩、

愛・寛容・希望などが壮大かつスペ

クタクルに描写される。

 

画面はほぼ暗澹としていて悲惨だっ

たり血なまぐさい場面も多いが、会

話も含めて殆どセリフではなく歌で

表現されるミュージカル映画なので、

リアルだけれども非現実感もあって

救われている。また愛や憎しみ、寛

容と慈悲、罪と償いなど、キリスト

教的な価値観を強く感じるが、素直

に考えさせられるし、心を動かされ

て特に最終盤のシーンは感動的だ。

上映時間は3時間近くあって長いが、

話が動いている時の展開は意外とテ

ンポが速く、一方で1人の人物の内

面の心理描写を映す際は各々じっく

りと時間をとって歌うシーンとして

おり、その心情がかなり深く丁寧に

伝わってきて感銘を受ける。

 

歌う場面で特に印象的なのは、あま

りにも悲哀なファンテーヌ、マリウ

スへの実らぬ恋が切ないエボニーヌ、

苦悩するジャベール、革命を志す若

者が歌う勇ましい “民衆の歌”など。

またバルジャンとコゼットとマリウ

スの3人がそれぞれ抱き合う親愛の

感情も自然で感情移入してしまう。

 

出演している俳優も皆んな芸達者で

歌も上手く、安心感がある。女優陣

では上品なコゼット役のアマンダ・

サイフリッドと人柄が良いエボニー

ヌ役のサマンサ・バークスが印象的。

ファンテーヌ役のアン・ハサウェイ

は美しく、また脇役だがテナルディ

エ夫人役のヘレナ・ボナム・カータ

ーは怪演で存在感がある。