調査士の実務をして半年経ちました。
今回は筆界の定義がテーマです。
調査士実務についているみなさんは筆界という言葉をどれだけ使っているのでしょうか。
少なくとも私は一般の人に対しては使ったことがありません。
何故なら正確に伝えられる自信が無いからです。
そもそも筆界の定義ってあるようでない気がするのですよ。
「地租改正の際に引かれた境界を原始筆界といって、これに分筆合筆すること以外には新たな筆界が現れたり消えたりすることはない。」
なんて言ったりしますがイマイチ筆界の定義とは言えない気がします。
そもそも原始筆界ってどういう性質のものなのか。
なんなら地租改正当時の単なる所有権界だったのではないのかという疑問があるわけです。
おそらく私が実務駆け出しがゆえの葛藤なのかもしれませんが、筆界の定義が定まらないことに対するモヤモヤをすごく感じています。
筆界の専門家である土地家屋調査士は一応それらしい説明ができるとは思いますが、一様に筆界について同じ説明をすることは困難だと思っています。
調査士実務では、その大半を占める境界確認の時の隣地説明などでは筆界と境界と所有権界は玉虫色にされて一言で「境界」と片付けて説明をしていることが多いと思います。
(ちゃんと筆界を説明している調査士さんごめんなさい。)
境界確認の境界とは調査士的には筆界のことを言ってるんですよね。
んじゃ、調査士が探求している筆界というものは一体全体なんなのか。所有権界とどう違うのか。
これについて私なりに考えたいと思います。
「実際には筆界と所有権界は同じであることがほとんどである。」
とも言われている。
では逆に筆界と所有権界が違う場合ってなんなのか。
筆界と所有権界とは本当に別物なのか。
この辺り取得時効により別々になると言われたりするがそれ以外はないのか。
色々疑問が生じる。
そんな状態で隣地に「筆界確認で来ました〜」なんて安易に筆界の発言はできない。
結局筆界について説明する必要が生じないようにやはり玉虫色にして「境界」と呼ぶことにしている。
少なくとも私はそうであり、そこにやはりモヤモヤも感じている訳です。
「境界確定」とか「境界確認」という言葉は調査士にとっては筆界確定だったり筆界確認として仕事をしているのにも関わらず受け手としては所有権界のつもりで確認をしていることがほとんどというか全てに近いと思います。
因みに、法務局としては、分筆などをする前提として筆界が確定されていて争いがないことを求めています。
だから調査士は、所有権界の確定である「境界確定」をした内容をあたかも「筆界確定」とイコールですよといった体で境界確認書を添付して登記を申請する訳です。
法務局は、調査士の申請内容を最大限尊重するので、調査士が筆界確認書として境界確認書を提出しているのだからそうなのでしょうという暗黙のルールがあるため、特に突っ込みはされずにそのまま通るのです。
ここもやはり個人的にはスッキリさせたい!って思うのです。
いやいや、境界確認は所有権界も筆界も同時に確認していますよと考えている調査士も多いと思います。
ではその説明をするのかというと、やはりそうすると説明が大変になるので調査士としては(というか少なくとも私は)それを明言するのは避けたい訳です。
でも同じ認識でないのに業務を進めるのはやはりモヤモヤが残る。
なんか全てがすっきりする説明はないのだろうか。
いっそのこと筆界は言い方の違いなだけで所有権界ですよ!って言えたら楽なのに!!と思うわけです。
では、筆界の定義について世間ではどのように言われているのか見ていきます。
例えば、武蔵野市の「境界確定の申請 申請者・実務取扱者向けガイド」には、境界確定とは、所有権界を確認することと書かれています。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20230929/00/81papa2/e0/2c/p/o0738040615344097560.png?caw=800)
やっぱ世間的にはそういう認識なのですよ。間違いなくね。
では単純にネットで「筆界とは」と調べてみる。
↓
《「筆界」とは,ある土地が登記された時にその土地の範囲を区画するものとし て定められた線をいいます。したがって,所有者同士の合意等によって変更するこ とはできず,分筆や合筆の手続をとらない限り,変動することはありません。 これに対して 「境界」という , 語は,所有権の範囲を画する線という意味で用いられることもあり その場合には 筆界とは異なる概念となります 土地は 通常 一筆を単位として取引されますが,一筆の土地の一部についても,時効取得するこ とや譲渡をすることが認められていますので,筆界に変動がなくても,所有権の帰 属は変更されることがあります。したがって,筆界は所有権の範囲と一致することが多いのですが,一致しないこともあります》
ん〜長い!(笑)
大事な部分は、、
「筆界」とは,ある土地が登記された時にその土地の範囲を区画するものとし て定められた線をいいます。ってことだと思いますが、もしこれを隣地に説明したとしても伝わる訳がないですよね。
もうちょっと的確に分かりやすく短い言葉で筆界とは何かを言えればもう少し浸透すると思うんですよね。
住民はもとより調査士自身にも。
んじゃお次は!
正確な記述で公式な定義としてはやはり六法!!ですかね。
ということで条文も確認してみます。
《不動産登記法123条1号
表題登記がある一筆の土地(以下単に「一筆の土地」という。)とこれに隣接する他の土地(表題登記がない土地を含む。以下同じ。)との間において、当該一筆の土地が登記された時にその境を構成するものとされた二以上の点及びこれらを結ぶ直線をいう。》
なお、これは筆界特定の章における筆界の定義となります
土地と土地との境ですよ~って国語辞典じゃないんだから・・・
ただ登記された時にその境を構成するってのは、なるほど境界が登記されたら筆界になるのかということなので少ししっくりしてくる。
次は実務書を確認してみます。
表示に関する登記の実務には「筆界は、隣接する各筆の土地相互間の公法上の境界のことである。いわゆる地番と地番の境界であ」るとしている。
うーん。公法上の境界だーってもっともらしいのですが、これで全員がそうかそうかともならないと思うのですよね。
最後に別の実務書を見てみる。
これには「筆界とは、法務局に登記された所有権界」であるとありました。
これはかなりいい線いっていると感じました。
何がいいのかというとまずもって分かりやすい!んで短文!だから説明がしやすい!
結局のところ筆界って、所有権保存登記をするための範囲を明確にするためのもので、法務局からしたら筆界もやはり所有権界なわけですよ。
ただこの定義の場合、登記されていない場合は筆界は無いのかという疑問が残ってしまうんですよね。
でも地租改正の際に定められた原始筆界が登記されてないからといって筆界がないわけではないですよね。
これは筆界が特定されてないだけで、登記官の認識としては旧公図などにあるそれはやはり筆界なわけてすよ。
んじゃ原始筆界ってなんぞやってなるのですが、元々は中国とおなじで、土地は国が持っていたのを税金を取るために民に分配して筆界で囲まれた範囲はあなたの土地ですよとされたものだと推測できるので、そうすると原始筆界もやはり所有権界ですよねということになるんじゃないかなと思うのです。
そうすると、その図面などが法務局に備え付けられていることから、その位置は明確でないにせよ所有権界としての筆界は法務局で認知はしているものになる。
そこで問題が出てくるのは取得時効だなんだって、所有権界が筆界とずれたりしたら、やっぱり筆界は所有権界じゃないんじゃないかということになるんですが、そうは言っても法務局には筆界しか認知していないのだから、時効取得したなら分筆して所有権登記の申請をしないとあなたの所有権界は地積測量図又は(正確ではないが)旧公図のままですということになる。
結局、何が言いたいのかというと、筆界を最も簡潔に説明するならば、法務局が知っている所有権界ということでいいんじゃないかと思うわけです。
よって、私の提唱する筆界の定義は、「法務局に登記された所有権界」というのに少し補足をして
筆界とは
「法務局に登記され、又は法務局が認知している所有権界」
これが最も正確で、かつ意味のわかる定義になるのではないでしょうか。
例えば取得時効で筆界と所有権界が分離した、なんてのは実際には分離したのではなくて、所有権界が法務局に知らされていなかったというだけ、
という整理をするのが最も単純で明快ではないでしょうか。
なので、もし所有権界を変えたいという事象がおきたのであれば、合筆、分筆、更正などの登記を申請して新たな所有権界を法務局に知らせて登記されるという説明になるわけです。
ということで、例のごとくだいぶ長くなってしまいましたが、最後に新筆界の定義をもう一度繰り返してこの記事を終わりにします(笑)
「法務局に登記され、又は法務局が認知している所有権界」
というのが私が提唱する筆界の定義でございます。
ご精読ありがとうございました🙇
みなさんは筆界について思うことはありますか?
完