彼女の平手打ちは、強力だった。
それだけで、僕という存在は消滅してしまったよう。
その強烈な刺激で、僕は、かつての記憶をよみがえらせた。
かつて外国の伯爵だった僕は、愛した女性の首を強くしめた。
それは、僕の愛が強すぎたからかもしれない。
彼女の首もとから、赤い川が流れた。
そのとたん、僕は、我に返りその血を止めようと首に口を当てた。
なぜ、そのときそうしたのかわからない。
彼女の川の水を飲んでみたいと思ったからかもしれない。
そのときから、僕は、吸血鬼と呼ばれるようになってしまったのだ。
そうだ、僕は、また愛した女性を苦しめている。
もう人間として生まれ変わっていないというのに。
小さな虫になっても、まだ悪いクセが治らない。(終わり)