うっそうと、おいしげる木々。緑が、なくなったとさけぶ人が、たくさんいるというのに、それがまるでウソのように感じる森。
どうやら人々は、そこがあったということをすっかりわすれていたようだ。
そのかわり、そこで木々は、人々にじゃまされることなく、のびのびと生きている。
木の名前がちがうと、色も変わってきます。そこに、いくつかの森ができ、その森と森の間には、広い野原がありました。そこの草や花は、光るぐらい、太陽をあびることができるのです。
ときどき、白いチョウがやってきて、少しだけみつをもらい、またちがう花へとんでいきました。
その野原のとある方向に、ずいぶんとさわがしい森があります。その音は、人々が作り出す機械の音ではありませんでした。
もっと、音自身が生きているような……そう、『声』がしていました。
森の中は、いつも夜がすみつづけていたので、外の光は、上のほうであそぶばかりで中に入っていけないのです。
さっきのチョウが、何かにおどろいて、まい上がった。そして、べつの花に向かっていきました。
「ママぁ、また逃げられた! ……ぜんぜん、つかまえられないよ。どうしよう」
「新しいチョウ、みつけましょう」
「うん……」
その野原には、人の家族がいたのです。
お父さんは、ただだまってみています。
少年は、大きい虫かごと、つかまえるためのあみ、それと、風にふくたび、お母さんにおさえつけられないと、じっとしてられない、大きなむぎわらぼうし。
だれもしらないはずのこの場所に、三人はどうやってきたのでしょう。すくなくとも、ここが目標としていた場所ではないようです。
「どうやら、道に迷ってしまったらしい」
今まで、だまっていた父親がそう口にしました。
地図をみても、地図は、なにも教えてくれない。でも、この場所だって、たちどまっていても、何も教えてはくれないのだ。
少年は、「どうするの」と心でうったえるように、お父さんとお母さんの顔をかわるがわる、のぞきこんでいました。
【10月24日夜ブログに続く…】