新商品の試供品が届いた。
以前からネーミングが気になっていたスプレー缶だ。
『忘れてもダイジョウブ』
(ヘアスプレーかな。)
あまり説明を読まないまま、申し込んでいた。
何に使うスプレー缶なんだろう?
『誰もいないのを確認した上で、散布してください。』
とりあえず、なにもない空中にスプレーしてみた。
セピア色の自分がいた。
さっき自分がいた場所だった。
どうやら、これは過去何があったか立体画像にしてくれるらしい。
忘れっぽい人には最適なものだ。
しばらく、そのまま画像が浮かび続けるらしい。
おもしろくなって、あらゆるところにスプレーしたら、僕の居場所がなくなってしまった。
スプレーを試したのは、彼女の部屋だったのだ。
彼女が買い物に行っている合間の暇つぶしのつもりだったのに…。
彼女には、新しい男が出来たようだ。
そう、僕はタダの友達なんだ。
彼女が帰ってきた。
僕は、もちろん、ぎこちない笑顔をしていた。
すると突然、彼女が僕の持っていたスプレーを取り上げた。
そして、僕が何をしていたのか知ることになった。
その製品、彼女が開発したものだったのだ。
「あなたのことがわからなくなったから、これ作ったの。でも、これでますますわからなくなってしまったわ」
「僕が、わからないんじゃない!
人間というものがわからないんだ!」
今さら、言い訳しても、どうしようもない。(おわり)