13からの続きです          いとしき人へ13


 それから叔父や叔母をはじめ、一報を聞きつけた親戚が次々とや

って来た。病室の入り口近くに立っている僕と父に向かい、それぞ

れが「なんで・・・。信じられない。」という言葉を口にした。

 そしてベッドに横たわる母の元へ駆け寄り「○○ちゃん・・・」と

言ったまま絶句する人や、髪や頬を撫でる人、手を握る人、聞こえ

ないと分かってはいるが、それでもやはり母の名を呼び続ける人・

彼らの姿を見ながら、僕は次第に「ああ、もう母はこの先起き上がる

事はないんだ。」という思いが、1番信じたくない思いが胸の中に広

がって行くのを感じていた。


 何人かの訪問が済み、病室はまた静寂に包まれた。僕の家へ向

かう親戚もいれば、そのまま病室に残る人もいたが、だんだんと

言葉数も少なくなっていき、今は誰ひとり話をしていなかった。

ただ黙って母の姿を眺めていた。

 そうしてしばらく時間が流れた。が、ここにいても容体の変化

がない限りどうすることもできないということで、僕と父を残し

て一旦それぞれの家へ帰ってもらうことになった。

 その時。病室へ妹がやってきた。彼女は僕と父に話をすること

なくベッドに駆け寄った。そして大声で叫んだ。

 「いやああ!おかあさん!!おかあさん!!なんで・・なんで・・」

 妹は何回も叫んでいた。ベッドの上に覆いかぶさり、母の顔を、髪

を、腕をさすりながら「なんで・・・なんで・・・」と何回も繰り返していた。

それを見た親戚の人がそばに行って肩をを抱いた。僕も妹の肩を抱

いていた。けれど何も言えなかった。泣いて涙を流す彼女をただ、抱

きしめるしかなかった。


 ひとしきり泣いて、それでもまだしゃくりあげる妹に僕はどうして

母が倒れたのか話をした。前にも言ったが、妹はようやく病気も回復

し、この日が久しぶりの外出だった。だから余計にショックが大きか

った。そして彼女は自分を責めていた。自分のせいで、あたしのせい

で母は倒れた。看病疲れでこうなってしまった。恐らく帰りの電車の

中で、その思いに打ちひしがれていただろう。

 そんな彼女に僕は言った。

「○○。そんなことない。それはぜったい違う。○○のせいとちゃう。」

 それでも自分を責め続ける妹に「ええか、もうそれは思ったらあか

ん。○○治ったやんか。おかあさん、喜んどったやんか。せやからも

うそれは言うな。」と慰めた。

 今はショックで、それしか考えることが出来ないのだろう。彼女の思

いが痛いほど分かるので、僕はそれ以上言わなかった。落ち着くま

での間、しばらくそばにいるしかなかった。

いとしき人へ15