大学一年の夏、私は思った。手持ち花火がしたい。
花火とはなぜあんなにも私たちの心を惹きつけるのだろうか。
夏に花火なんて楽しいに決まってるではないか。
しかも一浪して初めて迎える大学生の夏休みだ。
ようやく遊べるこの夏に花火をしない理由が見当たらない。



私はさっそく近所に住む高校同期Aを誘った。彼もまた一浪して入学した、いわば遅刻組である。
AにLINEすると快諾してくれた。
そしてもう1人の高校同期Sを加え3人で花火をすることが決まった。
ちなみに言うとこのSも一浪である。

Sには伝えていなかったが、私とAには大きな野望があった。それは、ドライブしながら横浜の海が見えるスポットに行き手持ち花火をするというものだった。

しかし、ここで重要な問題が発生する。3人とも車の免許を持っていないのだ。
もともと別の免許を持ってる同期Nを呼ぶつもりで話を進めていたが、彼に断られてしまったためこの計画は早くも変更を迫られた。
私とAは内心激しく気落ちしながらも、
「まあ、横浜の海見ながら花火が出来るだけでも十分じゃん…!」
となんとか盛り下がったテンションをあげようとしていた。


当日、私たちは電車移動という理想とかけ離れた交通手段に若干の悔しさは感じつつも何とか横浜駅に降り立った。
しかし、ここでまたしても問題が発生するのである。


3人とも手ぶらで来てしまったのだ。
どうしようもないアホどもである。
こんなだから浪人するのだ。
私は自分のことを棚に上げ、計画性のけの字もないこいつらを誘ったことを激しく後悔した。


しかしこんな事でへこたれる私たちではない。気を取り直して全大学生の味方、ドン・キホーテに向かった(どうでもいい話だが、ドン・キホーテの名前の由来がセルバンテスの同名の小説だと最近知った)。幸い、花火用品はまとめて外に出ていた。ところが、いい感じの花火セットとキャンドル、チャッカマン等を見繕いレジに持っていこうとした時、気づいてしまった。

「あ、バケツも持ってきてなくね。」

仕方ないのでバケツを買うべく店内に入った私たちだったが、その数分後に絶望することになる。どこを探してもバケツがないのだ。そんなはずはないと店内を隈なく探したがやはりないのだ。仕方なく店員さんに聞いてみた。

「あーバケツは置いてないっすねー」

もう笑うしかなかった。
そんな訳がないじゃないか。あの何でも揃うで有名なドンキにバケツがないなんていくらなんでもあり得ないではないか。
結局どうすることもできず、風呂場用品コーナーにあったプラスチック製の手桶をひとつ購入した。いま思うと頭がどうかしてるとしか思えない。しかし、当時の私たちは

「えこれ取っ手があるだけで全然使えるじゃん。なんなら取っ手ついてる分バケツより持ちやすくて良くね」

等謎のポジティブさを発揮してその奇行さに全く気づいていなかった。そしてゲラゲラ爆笑しながら手桶と花火セット片手に東口の海沿いへと移動した。