イメージをお借りした
妄想のお話です
BLです

ご理解いただける方のお暇潰しになれば…
m(__)m






〈舞姫 サト〉




このところ、
毎日のように客席にある顔に
サトは初めから気付いていた



もちろん、演技の最中は一心不乱
客の顔を見る余裕なんてない




わざわざお金を払って見に来てくれる客が

どんな風に待っているのか

観たあとには
どんな表情に変わっているのか

満足しているのか
がっかりしたのか




それぐらいは確認しておくべきだと

プロとして心得、実行していた





その初めての日にも

期待に満ちた、たくさんの顔を
まんべんなく確かめようと
客席に目を向けたものの

それは、叶わなかった



なぜなら


ほぼ満席の客席の中の
たった一人

連れに誘われ、
いかにも付き合わされてうんざりだと
言わんばかりの
若い男に

一瞬で意識を奪われてしまったから



自分がどんな顔で、どのくらいの時間
その男を凝視していたのか


慌てて視線をそらせたものの
うつむいた顔が熱く赤くなるのを
抑えられなかった


慌てて幕裏へ逃げるように下がり
胸を押さえて、息を整える

幸い、サトの出番は最終演目
まだ、心を落ち着けて準備をする時間はある…


落ちつけ、落ちつけと
自分に言い聞かせながらも
つい、
その姿を思い浮かべてしまう


皆と同じような、質素な服装では居るものの
その男の、美しい顔立ちと
内から光輝くような気品


その男の
周りに居る者たちが
なぜ平然としていられるのかが
不思議なほど


顔をさされて、ヒソヒソと噂されていても
おかしくないとおもうのに

ヘンなの……



などと思いを巡らせるうちに
なんとか平常心を取り戻した





自分の演技は
いつものように全うできたと思う……


けれども

いつもの
演技後の確認は


あの男がまだ客席にいることを
目の端にとらえたのが精一杯

客席全体を確認することは叶わず

うつ向いて
そそくさと退場してしまった


舞台に立つ者が
客の一人だけを見つめているなんて
あってはいけない、失礼だと思ったから

さっきみたいに
目を奪われて動けないなんて
みっともないことはできないから

サトはそう考えたからだけれど







……
いつものように、
落ち着いて全体を見ていれば


円い瞳をさらに、まん丸にして、
子供のように輝かせ
それを、自分に向けて固まっている
ショウを
確認することができただろうに……





♪いつか君を見つけた時に
僕も君に見つけて貰ったんだな