ウォッチメンズ⑨
「ダメだ!アイデアが何も浮かばねぇっっ!」
小林はそう絶叫すると書きかけの原稿用紙をクシャクシャに丸めて口に詰め、トイレで四つん這いになりながら頭を一心不乱にかきむしった。
作家である彼が執筆に息詰まった時におこす彼独特の癇癪である。
ロハスかつハードボイルドに描いた処女作「未来警察アポクリゲ」は発行部数3000万部を超える世界的な大ベストセラーだ。
主人公の名は「デビッドハッセルホフマン」。
ガトリングガンを携えて腰の周りに手榴弾とナパーム弾をぶら下げ、背中にRPGを背負ったホフマンがどんな危機も類い希な精神力と圧倒的火力でねじ伏せる勧善懲悪は読む者にとって新鮮な娯楽小説だった。
処女作でスマッシュヒットを飛ばした小林はもうひと山当てようとシリーズ化して、未来警察アポクリゲ「帝国の逆襲」、「ホフマンの復讐」と第二、第三弾を矢継ぎ早に世に送った。
しかし小林の意図に反し発行部数は伸び悩み、特にホフマンの復讐は1万部と全くの頭打ちとなる。
何故なら彼の小説は“落ち”が全て一緒だったのだ。
絶体絶命のピンチに追い込まれたホフマンが土壇場で「クールランニンッ!」の叫び声とともにRPGをぶっ放して敵を木っ端微塵にする。
全てその落ちなら最初からRPGを使えば良いじゃん、との至極ごもっともな非難を浴びたのだった。
そんな状況を打開すべく小林は違うジャンルに手を伸ばすが、何を書いても裏目に出る鳴かず飛ばずの袋小路に迷い込んでいた。
「クソっ、こんな筈じゃ。これじゃ祖父に合わす顔がない…」
トイレでズブ濡れになった小林はそう呟くと虚ろな目で遠くを眺めた。
~脱線するが彼の祖父はプロレトゥーリオ文学の最高傑作の呼び声高い、かの「蟹味噌工船」の著者小林多奇痔であり、小林家は代々多くの文豪を輩出している~
5分は経過したのだろうか。
ふと正気を取り戻した小林は、トイレットペーパーに向かって突然吠えた。
「SF、スポ根、時代物に、恋愛小説…何をやってもこのままじゃダメなんだ!」
「否、こうなったらいっそのこと…」
何かを決心すると踵を返し、居間にあるパソコンを素早く立ち上げると、数あるフォルダの中から「CIA」と名付けられたパスワード付きフォルダを選び、アクセスした。
「パ、パツイチ逆転狙うなら、官能モノしかねぇ!」
題材を決めるべく、何かに取り憑かれたかのようにエロフォルダ内を血眼になって物色しているとある映像に目が止まった。
駅前の自販機にカメラを直結して録画している映像に、偶然にもノーパンで転ぶ女子高生の画像が写っていたのだ。
「日常の中のタナボタエロス。これはいける…」
右手の拳を振り上げながら一人高らかに勝利宣言をすると、そこには先ほどまでとはうって変わって凛とした小林がいた。