杏里「CAT'S EYE」(1983)のヒットは、1980年代中盤以降のアニソンのシティポップ化を加速させたとみられる。映画主題歌であれば沢田研二「ヤマトより愛をこめて」(1978)やゴダイゴ「銀河鉄道999」(1979)といった例もあったが、TVアニメだとその動きはまだ傍流という印象があった。しかし、「ルパン三世PART2」(1977〜80)や「スペースコブラ」(1982〜83)といった東京ムービー新社制作の番組で使われた曲は当時でもアダルトな雰囲気を感じ取って、少年時代の自分にインパクトを与えた。「キャッツ・アイ」も東京ムービー新社制作になるのでこれらの流れを組んでということだったのだろうが、この曲のヒット以降、原作の選定次第という要素もあったにしてもニューミュージックのアーティストやアイドル歌手の起用は普通になっていった感がある。

 

しかし、「キャッツ・アイ」制作時のリアルタイムではまだアニソンに対する認識がそこまで追いついていなかったため、杏里はこの曲を歌うのに抵抗があって少なからずトラブルらしきものがあったらしい。その影響なのか、「キャッツ・アイ」第2期制作の際には主題歌をうたうアーティストとしてこの曲がデビューとなる新人が起用された。刀根麻理子である。レコード会社等違うが、当サイトにてアルバム評を継続してきた鮎川麻弥もほぼ同時期に同じような経緯にてデビューしており、アニソンとの向き合い方というのが大きな課題となっていた時期だったのだろうと感じさせるものだ。意義的な面は措いておいて、個人的には「CAT'S EYE」より刀根麻理子のこの主題歌「DELLINGER」(1984)の方が好きだ^^; のっけからハイテンションなイントロに乗せられる感があって一気に聴かせてくれる。

 

刀根はデビュー前アマチュアバンドでボーカルをしていたそうなのでまったくの未経験者ではなかったようだが、純粋に趣味という意識だったのか給料目当てで音楽事務所との契約にサインしてしまって当初は人前で歌うのも苦手だったらしい。しかし、デビュー翌年、「DELLINGER」を収録して発表されたファーストアルバム「WITTY」(1985)はそういったものを感じさせない巧者ぶりをみせてくれる。「witty」というのは「機知に富む」とか「才気煥発」といった意味だが、それにふさわしい内容だ。これは大半の曲のアレンジを務めているラリー・ウィリアムズ及びバックを担当している海外ミュージシャンの力もあるのかもしれないが、躍動感溢れるサウンドは刺激に溢れている。全篇英語詞という曲が2曲含まれているのも、その印象を強めている。半数の曲の作曲を担当しアルバムのプロデューサーも務めている木森敏之の力もあるのだろう。残りの曲は「DELLINGER」以外を筒美京平が手がけているというのも豪華だ。詞は三浦徳子の3曲が目立つものの軸になる人はいない印象だが、1曲だけ刀根本人が登場している。

 

冒頭の「RHAPSODY AGAIN」のイントロからして衝撃的である。作曲は筒美だそうだが、なかなかアグレッシブな曲調で意外な感はある。いきなりの幕切れにビックリするのもつかの間、続く「YOU DON'T HAVE TO GO」が全篇英語詞の曲で、これまた何が始まったのかと思わせる^^; このあたりがいかにも「witty」なのか? 勢いあるバンドサウンドという印象は変わらないが、3曲目「MANNEQUIN(21世紀マヌカン)」は刀根の歌唱にキュートな雰囲気が加わり、並一通りではないところをみせる。4曲目「MIDNIGHT ESCAPE」は前半一旦ブレーキをかけて静けさを演出しているかのようだが、サビを引き立たせるための展開のようだ。こちらが筒美作曲というのは「RHAPSODY AGAIN」より納得できる。

 

「DELLINGER」はLPでいうA面最後に置かれている。これはシングルレコードと同じ録音なのかこれだけミュージシャンが違うようだし作曲が佐藤健・アレンジが新川博というのもこのアルバム中では例外だが、特に違和感はない。このアルバム自体、この曲のイメージに沿うよう制作されたということなのだろうか。

 

LPでいうB面最初の曲「STREET HORIZON(彼女の自由)」は、ほとんど勢いで聴かせてきた感のあるA面とややタッチを変えて、幾分リラックスした印象。A面と相似を意識しているのか、2曲目は全篇英語詞の「MIDAS TOUCH」。「YOU DON'T HAVE TO GO」が木森作曲なのに対してこちらが筒美作曲になっているのが興味深い。3曲目「NEW YORK FANTASY」は前曲に続き筒美作曲だが、洒落た雰囲気の漂う曲だ。ほとんど切れ目のないまま次の「NIGHT IMAGINATION」になだれ込む。これはA面の「MANNEQUIN(21世紀マヌカン)」に近いキュートな歌声が引き立つ曲だが、これが刀根本人の手になる詞である。最後の「DIRECT MAIL」は寂しげなピアノで始まるイントロに、締めくくりを予感させられる。B面は総じてA面より穏やかな感はあるが、しっとりとした印象の曲はこれだけでやや唐突な気がしないでもないので、もう1曲くらいこのような曲が入っていてもいいように思う^^;