「バックバンドSTARTLEのメンバーによるアレンジ」「シングル曲を収録しない」など、来生たかおとしては新しい試みの多かったアルバム「SOMETHING ELSE」(1989)がセールス的に芳しくなかった影響もあったのか、1990年の来生は年末にようやくシングル「夢より遠くへ」がリリースされた程度でアルバムの発表がなかった。1991年にオリジナルアルバム「永遠の瞬間」とセルフカバーアルバム「LABYLINTH II」の2枚が発売されていて販売間隔からしておそらく並行で制作されていたものであろうし、特に「LABYLINTH II」は海外アーティストの関与の大きいアルバムであったからそちらに時間を取られたというのも大きかったのであろうが、来生の創作上の頂点であったと位置づけられる1983〜84年は同様な内容で2年間に4枚のアルバムを制作しているだけに、後退は否めないだろう。

 

上記アルバム「永遠の瞬間」が既存の編曲家によるアレンジでシングル曲やタイアップ曲を収録させた従来の制作路線に戻されてしまったのは仕方ない面もあるのかもしれないが、残念に感じるところもある。しかし、使い方がこなれてきたという面もあるのだろうし来生がリクエストしたという可能性もあると思うが、やや軽量感はあるものの「Étranger」(1987)や「With Time」(1988)などで甚だしかった電子音の濫用が抑制された印象があり、抵抗感は薄らいでいる。1980年代末の来生の曲はしばしば歌詞とメロディにミスマッチを感じさせるところがあって一時来生のアルバム購入を見合わせる一因となったものだが、そういったスランプ(?)からも脱却した感があって、アルバム全体の出来としてはおさおさ前作「SOMETHING ELSE」に劣るものではないだろう。収録された「夢より遠くへ」がCMソングとしてロングセラーを記録した曲であったのも相まって、セールス面に関しても復調をみせたようだ。なお、この曲のヒットと「永遠の瞬間」発売を契機として、「浅い夢」(1976)を始めとした過去の来生のアルバムを一斉にプライスダウンして再発するという施策も行われた。

 

編曲陣の萩田光男・新川博・椎名和夫は過去の来生のアルバムでも参画した例がみられるが、船山基紀は珍しいだろう(歌詞カードを見たら「元基」となっているが誤植だよな^^; 萩田も一般には「光雄」表記だがこの時期は「光男」で活動していた模様)。いずれにしても個人的にはあまり好みのタイプがいない^^; 自分の手元にあるCDは初回発売のデジパック仕様だが、帯を見たらこれとコンサートライブのビデオテープもしくはレーザーディスクを購入した人対象に抽選で来生のピアノ弾き語りを収録した特製カセットテープがプレゼントされるという企画が紹介されていたのを発見する。単なる販促施策なのかもしれないが、来生の本当にやりたいのはこういうシンプルなアナログスタイルであったというのを反映させたものではないかと邪推したくなる^^;

 

個々の曲を見ていこう。冒頭、「君の選択」のしみじみとしたイントロを聴くと、これこそ来生に期待している味わいだと安心感をおぼえる。いまいちアレンジに特徴的なものを感じない憾みはあるが^^;、これは快作である。そして哀愁漂う名曲「夢より遠くへ」へと繋げられるのは、アルバムの世界への没入感を大きく高めてくれる。そして、3曲目「Your Days」では一転して明るくさわやかな印象になる。なお、この曲も銀行のCMソングだったとのこと。続く「1/2の二人」も気楽さを感じさせる、のどかな曲だ。しかし5曲目「鏡の風」はメランコリックな曲調でストリングスを重々しく響かせ、前半のクライマックスを意識しているように感じさせる。

 

このアルバムはすでにLPで発売されていないが、LP時代のA面B面を意識して制作しているのか、6曲目「はかなさのしくみ」でアグレッシブに場面を転換させている。この曲はやや無機的な印象も残るこのアレンジが似合っているように感じられるので、このアルバム中でも割と好きな曲だ。表題曲「永遠の瞬間」がこれに続くが、前曲と対照的な、しみじみとしてストリングスサウンドが心地よい曲である。なお、これも不動産会社のCMソングだという。やはりA面B面の相似を意識した構成なのか、続く3曲目「片思いのLunch」は「Your Days」と似たタイプのさわやかな曲だ。しかし、続く「まばゆさの余韻」「風のいろどり」も同じような印象の軽めの曲で、曲自体はそんなに悪くないものの、締めくくりという意味では物足りないままに終わってしまうのが残念だ。