∂月と6ペンス

サマセット・モーム

 

           

 

 

∂作中の登場人物、ストリックランドがゴッホ、セザンヌに続く美術史上の重要人物であるゴーギャンをイメージしている事もあって、どうしても重ねて読んでしまう本書は、冒頭こそ、やや状況説明に徹していてまわりくどく感じるものの、ストーリーが一転して動き出してからはぐいぐいと最後まで連れていかれる。
何より、語り手役の作家とストリックランドの会話のテンポ、セリフ回しが素晴らしく魅力的。

 "おれは描かなくてはいけない、といってるんだ。描かずにはいられないんだ。川に落ちれば、泳ぎのうまい下手は関係ない。岸に上がるか溺れるか、ふたつにひとつだ"(ストリックランド)
絵に限らず孤独に表現活動を続けている誰かに、そして、そんな人を応援している人にも 

おススメ。

この三つのことがちょっとでも気になるというなら、『月と六ペンス』を読むべき。
 理由は 

 (1)サマセット・モームはもともとがイギリス諜報機関のメンバーで、ジュネーブでの諜報活動に携わっているうちに激務で健康を害し、スコットランドのサナトリウムで静養しているあいだに本書を書きあげた。
 (2)『月と六ペンス』の主人公はチャールズ・ストリックランドというのだが、これはポール・ゴーギャンその人をまるまるモデルとしたかなり風変わりな伝聞伝記なのである。
 (3)そこには、作家の「僕」がパリで出会った画家(ストリックランドすなわちゴーギャン)が妻を捨てパリに出て、友に助けられながらも、友の妻を自殺に追いやり、その夫が去った妻を思い、画家が南国の女に愛されるといったような男女の絆が、次々に描かれている。

題名の「月」は幻想をあらわし、「六ペンス」は現実をあらわしているらしい。モームは、その後イアン・フレミングらによって確立していったスパイ小説の原型ともいうべき連作『アシエンデン(秘密諜報部)』

 

 

を書いた。

∂内容紹介

その絵を描いたのは、知ってはならない秘密を知った罪深い男だ。

ロンドンでの安定した仕事、温かな家庭、そのすべてを捨て、一路パリへ旅立った男が挑んだこととは――。英文学の歴史的大ベストセラーの新訳。

あるパーティで出会った、冴えない男ストリックランド。ロンドンで、仕事、家庭と何不自由ない暮らしを送っていた彼がある日、忽然と行方をくらませたという。パリで再会した彼の口から真相を聞いたとき、私は耳を疑った。四十をすぎた男が、すべてを捨てて挑んだこととは――。ある天才画家の情熱の生涯を描き、正気と狂気が混在する人間の本質に迫る、歴史的大ベストセラーの新訳。

∂内容(「BOOK」データベースより)

ある夕食会で出会った、冴えない男ストリックランド。ロンドンで、仕事、家庭と何不自由ない暮らしを送っていた彼がある日、忽然と行方をくらませたという。パリで再会した彼の口から真相を聞いたとき、私は耳を疑った。四十をすぎた男が、すべてを捨てて挑んだこととは―。ある天才画家の情熱の生涯を描き、正気と狂気が混在する人間の本質に迫る、歴史的大ベストセラーの新訳。

∂著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

モーム,サマセット
1874‐1965。イギリスの小説家・劇作家。フランスのパリに生れるが、幼くして両親を亡くし、南イングランドの叔父のもとで育つ。ドイツのハイデルベルク大学、ロンドンの聖トマス病院付属医学校で学ぶ。医療助手の経験を描いた小説『ランベスのライザ』(1897)が注目され、作家生活に入る。1919年に発表した『月と六ペンス』は空前のベストセラーとなった代表作である 

金原/瑞人
1954(昭和29)年岡山県生れ。翻訳家、英文学者。法政大学社会学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

 

 

 

 

 

 

 

∂Lyn

StartingOver 2020