∂チューリングの大聖堂

ジョージ・ダイソン

 

      

 

 

∂プログラム内蔵型コンピューターやランダム・アクセス・メモリ(RAM)が開発されるプロセスを知ることで、コンピュータへの理解は深まったが、それ以上に興味深かったのは水素爆弾を作ると言うあの当時の軍事的要請が今日的なコンピューターを生み出す原動力となり、そのような状況を利用して自らの数学的理想を現実のものとしようとしたフォン・ノイマンと言う天才がいたことである。フォン・ノイマンは最初は純粋数学の分野で「集合論の公理化」などの研究をしていたが、ゲーデルの不完全性定理を知るにつけ、純粋数学の分野の限界を悟った。そのことが彼をして応用数学に研究の矛先を転換させるきっかけとなり、また連合国側に勝利をもたらすと言う使命感も応用数学を追求することになった。プリンストンの高等研究所で彼は、数学者・物理学者と技術者のチームを率いていたが、彼がチームリーダーとなる前は、スタッフは仕事の進め方について先が見えずに悶々としていた。しかしノイマンが、技術者達に対しては、比較的単純な指令によって動く機械を作ることを指示し、数学者たちのグループに対しては単純な指令の組み合わせによって必要を満たすプログラムを作成することを指示することによって、お互いの連携は単純になり、仕事が驚くほど簡単にはかどるようになる。彼のそのようなコーディネーターとしての能力は優れていた。本書は、時間は螺旋系に進行するような具合に文章が並んでいるから少し読みずらい。慣れない方へのお勧めは、まず最後の方にある「訳者あとがき」を読んで大雑把な全体像を捕まえてから本書を読み進めるとよい。最初の方には「主な登場人物」についてのまとめもついており、途中で混乱してきた時に参考になる。
ノイマンはおそらく水爆の実験に立ち会ったことによる影響と思われる癌で衰弱していくのだが、死を目前にして厳格なカトリック信徒になる。死への恐怖からそうしたものと思われるが、そのようなノイマンに対して彼の娘のマリーナは『あなたは何百万人もの人々を亡き者にすること(水素爆弾の開発)を沈着冷静にじっくり考える人なのに、自分自身の死に直面することができないのね。』と言う。そうするとノイマンは『それとこれとはまったく違うんだ…。』と答える。水爆は彼を活かしてコンピューターを現実のものとするのを可能にしたと同時に、彼の命を癌と言う形で奪うことになった。コンピューターの恩恵にどっぷりと浴している我々は、その歴史的な起源を知ることで、この世界の土台となっている悲喜劇に種々の感慨を抱いた。

 

 

∂内容紹介

グーグル、アマゾンが君臨する現代のデジタル世界は、もとをたどれば数学者チューリングの構想した「チューリングマシン」に行きつく。そして理論上の存在だったチューリングマシンを現実の装置として創りあげたのが万能の科学者フォン・ノイマンだ。彼の実現した「プログラム内蔵型」コンピュータが数に関する概念を変え、デジタル宇宙を創生したのだ。しかし、フォン・ノイマンがそれを成し遂げたのは、産業や学問のしきたりにとらわれない、プリンストンの高等研究所という舞台あればこそであった。チューリングは何を考え、フォン・ノイマンはどう立ち回り、アインシュタインやゲーデルを擁した高等研究所はいかにしてその自由性を得るにいたったのか。そして彼らとともにコンピュータ開発を支えた科学者・技術者はいかにして関わりを持つようになり、現代に直結するどんな偉業を成し遂げたのか。高等研究所などに収められた詳細な文献や写真資料、豊富なインタビュー取材をもとに、大戦後の混乱でこれまで必ずしも明らかでなかった歴史事情や、知られざる人々の肖像をちりばめて綴る、決定版コンピュータ「創世記」。

∂内容(「BOOK」データベースより)

高等研究所などに収められた詳細な文献や写真資料、豊富なインタビュー取材をもとに、大戦後の混乱でこれまで必ずしも明らかでなかった歴史事情や、知られざる人々の肖像をちりばめて綴る、決定版コンピュータ「創世記」。

∂著者について

◎著者紹介=ジョージ・ダイソン(George Dyson): アメリカの科学史家。著書に本書のほか、アリュート族のカヤックに関する『バイダルカ』Baidarka、デジタルコンピューティングとテレコミュニケーションを題材にしたDarwin among the Machines、宇宙探索に関するProject Orionなどがある。父は物理学者のフリーマン・ダイソン。姉は投資家でIT業界のオピニオンリーダーであるエスター・ダイソン。 

◎訳者略歴=吉田三知世(よしだ・みちよ): 京都大学理学部物理系卒業。英日・日英の翻訳業。訳書にクラウス『ファインマンさんの流儀』、ファーメロ『量子の海、ディラックの深淵』、ウィルチェック『物質のすべては光』、ボダニス『E=mc2』(共訳)、マンリー&フォーニア『アメリカ最優秀教師が教える 相対論&量子論』、ガブサー『聞かせて、弦理論』、ジョンソン『もうひとつの「世界でもっとも美しい10の科学実験」』ほか多数。

∂著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

ダイソン,ジョージ
アメリカの科学史家 

吉田/三知世
京都大学理学部物理系卒業。英日・日英の翻訳業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

 

 

 

 

 

 

 

 

∂Lyn

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