∂自由の命運 上・下

ダロン・アセモグル&ジェームズ・A・ロビンソン

 

                

 

 

 

∂『国家はなぜ衰退するのか』

 

 

 

のダロン・アセモグルとジェイムズ・A・ロビンソンの新作。原著の刊行から時間をおかずに邦訳が出て来るあたり、特にアセモグルや本書への期待の高さがうかがえる。
もちろん、その期待に違わない高密度な内容。
自由と繁栄を享受するのがいかに困難なことなのか。その困難性を、狭い回廊を進み、そして留まるというふうに説明するところから、原著のタイトルは「The Narrow Corridor」となっている。この狭い回廊の中を進んでいる状態を「足枷のリバイアサン」、国家の力が強大化して社会が貧弱な場合を「専横のリバイアサン」、社会の力が強大化して国家が貧弱な場合を「不在のリバイアサン」とする。それぞれのリバイアサンの事例を世界各国の歴史の中から紹介している。
上巻の前半部分は著者が提示するモデルの説明が中心となるが、特に第2章「赤の女王」が最後まで重要な役割を果たす。
「赤の女王」は『鏡の国のアリス』に登場する挿話で、アリスと赤の女王の競争に関するものだが、本書では、国家と社会がそれぞれに強大化することで競い合い、それをもって牽制し合いリバイアサンに足枷をはめることにより「狭い回廊」を進むことを実現させるとしている。 
上巻では、その競争による均衡を保つことで狭い回廊を進むヨーロッパと国家の強大化が上回り専横のリバイアサンを招来させてしまった中国の対比が際立っている。
歴史的事象を極めて明確なモデルで分類して見せる。その手際の良さとモデルの切れ味の鋭さが印象に残る一冊。 

上巻で示されていたモデルがいかに妥当なものなのか、様々な事例を対象に論証していく章が続くのが下巻である。
当然、当てはまりの悪い事例もありそうなところだが、そのような事例をモデルの中に落とし込む手際が鮮やかである。例えば、第11章ではアルゼンチンが取り上げられている。この事例は「足枷のリバイアサン」・「専横のリバイアサン」・「不在のリバイアサン」のいずれにも妥当しにくいところ、「張り子のリヴァイアサン」という新たなカテゴリを設定し、なおかつこれを先行して示した三つのリバイアサンとの関係の中に動的に位置付けてみせる。これが何とも鮮やかで唸らされる。
あるいは、第14章「回廊のなかへ」。こちらは、自由と繁栄を享受する回廊の中へ進む経路について論じているが、ここでの事例の示し方も見事(ちなみに日本が事例として取り上げられるのはここ)。
上巻だけでも十分なボリュームがあり、さらに下巻までとなると手が回らない人も少なくないだろうが、下巻の最後まで本書の密度は落ちることなく、下巻を手に取らないのは勿体ない。
邦訳では上下巻に分かれることになったが、アセモグルのノーベル経済学賞受賞を確信させる一冊。

 

 

∂内容紹介 上巻

「好奇心を満たすだけでなく、刺激に富む一級の本」
――ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』でピュリッツァー賞受賞)

「人類史をたどる時空を超えた魅惑的な旅に私たちを誘う。自由に不可欠な構成要素をさがす旅へと。……今日これほど重要な本はない」
――ジョージ・アカロフ(2001年度ノーベル経済学賞受賞)

自由の命運を握る「狭い回廊」とは? 世界的ベストセラー『国家はなぜ衰退するのか』著者の最新作

ポピュリズムの伸張や専制国家の台頭により、世界各地で脅かされている「自由」。この権利を勝ち取り、経済的な繁栄を成し遂げた国々が、人類史上まれなのはなぜか<? br> *
繁栄の前提条件となる個人の自由と安全は、強力な国家=「リヴァイアサン」なしにはあり得ない。しかし国家が強くなりすぎれば「専横のリヴァイアサン」(独裁国家)が生まれ、逆に弱すぎれば「不在のリヴァイアサン」(無政府状態)に堕してしまう。専横と不在のふたつのリヴァイアサンに挟まれた「狭い回廊」に入り、国家と社会のせめぎ合いをへて「足枷のリヴァイアサン」を生み出した国だけが、自由と繁栄を維持できるのだ。では、その道筋とは<? br> *
内戦下のシリアから、古代ギリシア、建国期のアメリカ合衆国、現代中国まで、古今東西の豊富な歴史研究をもとに、ますます貴重になりつつある自由を保ち、「狭い回廊」内に留まる方策を論じる。世界的ベストセラーとなった前著『国家はなぜ衰退するのか』をしのぐ傑作。

∂内容上巻(「BOOK」データベースより)

自由の命運を握る「狭い回廊」とは?ノーベル経済学賞の歴代受賞者が称賛する必読の書。ポピュリズムの伸張や専制国家の台頭により、世界各地で脅かされている「自由」。この権利を勝ち取り、経済的な繁栄を成し遂げた国々が、人類史上まれなのはなぜか?繁栄の前提条件となる個人の自由と安全は、強力な国家=「リヴァイアサン」なしにはあり得ない。しかし国家が強くなりすぎれば「専横のリヴァイアサン」(独裁国家)が生まれ、逆に弱すぎれば「不在のリヴァイアサン」(無政府状態)に堕してしまう。専横と不在のふたつのリヴァイアサンに挟まれた「狭い回廊」に入り、国家と社会のせめぎ合いをへて「足枷のリヴァイアサン」を生み出した国だけが、自由と繁栄を維持できるのだ。では、その道筋とは?内戦下のシリアから、古代ギリシア、建国期のアメリカ合衆国、現代中国まで、古今東西の豊富な歴史研究をもとに、ますます貴重になりつつある自由を保ち、「狭い回廊」内に留まる方策を論じる。世界的ベストセラーとなった前著『国家はなぜ衰退するのか』をしのぐ傑作。

∂内容紹介 下巻

「非凡な成果。名著『国家はなぜ衰退するのか』の再来だ」
――ジャン・ティロール(2014年度ノーベル経済学賞受賞)

「この見事で時宜にかなった本は……シンプルで強力な枠組みを提供してくれる」
――ベント・ホルムストローム(2016年度ノーベル経済学賞受賞)

《フィナンシャル・タイムズ》《カーカス・レビュー》年間ベストブック! 
ノーベル経済学賞の有力候補と目される著者が放つ渾身の書

自由の命運を左右する「狭い回廊」への道は一様ではなく、またそこに留まるのも容易ではない。
*
成長著しい中国の繁栄に潜む罠、世界最大の民主主義国と言われながら、カースト制度という見えない「規範の檻」に縛られたインド、アメリカ合衆国のアンバランスな発展の功罪、南米やアフリカの能力を欠いた「張り子のリヴァイアサン」たち、「足枷のリヴァイアサン」が制御不能に陥ったナチス・ドイツと現代のポピュリズム運動との連続性、幅広い連合の形成によって「狭い回廊」内への移行に成功した日本や南アフリカと、失敗したトルコやジンバブエ――。
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さまざまな歴史の教訓から浮かび上がるリヴァイアサンの統御法と回廊内に留まるすべとは? ノーベル経済学賞の受賞が有力視される経済学者と気鋭の政治学者が20年におよぶ研究をもとに贈る渾身の書。
解説/稲葉振一郎

∂内容 下巻(「BOOK」データベースより)

“フィナンシャル・タイムズ”“カーカス・レビュー”年間ベストブック!名著『国家はなぜ衰退するのか』をしのぐ傑作。自由の命運を左右する「狭い回廊」への道は一様ではなく、またそこに留まるのも容易ではない。成長著しい中国の繁栄に潜む罠、世界最大の民主主義国と言われながら、カースト制度という見えない「規範の檻」に縛られたインド、アメリカ合衆国のアンバランスな発展の功罪、南米やアフリカの能力を欠いた「張り子のリヴァイアサン」たち、「足枷のリヴァイアサン」が制御不能に陥ったナチス・ドイツと現代のポピュリズム運動との連続性、幅広い連合の形成によって「狭い回廊」内への移行に成功した日本や南アフリカと、失敗したトルコやジンバブエ―。さまざまな歴史の教訓から浮かび上がるリヴァイアサンの統御法と回廊内に留まるすべ

∂著者について

ダロン・アセモグル Daron Acemoglu
マサチューセッツ工科大学(MIT)エリザベス&ジェイムズ・キリアン記念経済学教授。専門は政治経済学、経済発展、成長理論など。40歳以下の若手経済学者の登竜門とされ、ノーベル経済学賞にもっとも近いと言われるジョン・ベイツ・クラーク賞を2005年に受賞。ほかにアーウィン・プレイン・ネンマーズ経済学賞(2012年)、BBVAファンデーション・フロンティアーズ・オブ・ナレッジ・アワード(経済財務管理部門、2016年)など受賞多数。著書に『国家はなぜ衰退するのか』(ロビンソンとの共著、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)、『マクロ経済学』(レイブソン、リストとの共著)など。

ジェイムズ・A・ロビンソン James A. Robinson
シカゴ大学公共政策大学院ハリススクール教授。ハーバード大学教授などを経て現職。専門は政治経済学と比較政治学、経済発展と政治発展。ボリビア、コンゴ、シエラレオネ、ハイチ、コロンビアなどで実証研究を行なっている。著書に『国家はなぜ衰退するのか』(アセモグルとの共著、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)、『歴史は実験できるのか』(ダイアモンドとの編著)など。

訳者略歴
櫻井祐子(さくらい・ゆうこ)
翻訳家。京都大学経済学部卒業、オックスフォード大学大学院で経営学修士号を取得。訳書にアリエリー『不合理だからうまくいく』、フリードマン『100年予測』(以上早川書房刊)、カプラン『地政学の逆襲』、ロス『Who Gets What』など多数。

∂著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

アセモグル,ダロン
マサチューセッツ工科大学(MIT)エリザベス&ジェイムズ・キリアン記念経済学教授。専門は政治経済学、経済発展、成長理論など。40歳以下の若手経済学者の登竜門とされ、ノーベル経済学賞にもっとも近いと言われるジョン・ベイツ・クラーク賞を2005年に受賞。ほかにアーウィン・ブレイン・ネンマーズ経済学賞(2012年)、BBVAファンデーション・フロンティアーズ・オブ・ナレッジ・アワード(経済財務管理部門、2016年)など受賞多数

ロビンソン,ジェイムズ・A.
シカゴ大学公共政策大学院ハリススクール教授。ハーバード大学教授などを経て現職。専門は政治経済学と比較政治学、経済発展と政治発展。ボリビア、コンゴ、シエラレオネ、ハイチ、コロンビアなどで実証研究を行なっている

櫻井/祐子
翻訳家。京都大学経済学部卒業、オックスフォード大学大学院で経営学修士号を取得。訳書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

 

 

 

 

 

 

∂Lyn

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