答えなどどこにもありはしない。
当てなどどこにもなく、寂しくて悲しくて、道にしゃがみ込んで膝を抱えても、誰も手を貸してくれない。

倒れても、倒れても、自分の手で大地を支えに立ち上がり、ただ今を、自分を生きるだけだと唇噛み締めた。

それでもこの旅の途上で、無二の親友に10代で出会い、当時、仕事も夜間高校もプライベートも、朝から晩までいつも行動を共にして、周囲の皆に呆れ返られていた。

でも、一緒だった職場を辞め、家庭を持ち、いつしか互いに歳を食っていった。

昨夜、数年ぶりにそんな有ちゃんが店に食べにきてくれたんだ。
今の職場の同僚とその彼女と一緒に。
いつのまにかあのリーゼントがオールバックになり、ちらりほらり白髪が目立ちはじめたその容姿は、笑った時にはそれでもやっぱり有ちゃんだった。

食べ終えた後に駐車場まで見送ろうとすると、立ち話になり、有ちゃんを介して同僚とその彼女の初めて食べに来た感想を聞いていたと思ったら、気付いた時には有ちゃんと僕との昔話になっていた。

そして、いつまでも終わりそうもない話に飽きたのか、気を遣ってなのか、同僚と彼女は先に失礼と車に乗り込んで帰って行った。

もう閉店後で明かりを落とした薄暗い駐車場の片隅の網にもたれて2人並び、久々に僕たちは青春のあの時に戻り、何にも邪魔されず、時という障壁も取り払い、本当にあの頃と同じように話し合い、語り合った。

初秋の冷たい風が舞い降りてきて足元から身体を冷やしたけど、心はどんどん熱くなり、有ちゃんの嫁さんの度重なった病を2人で乗り切ってきた話などを聞くにつれ、いくつもの山あり谷ありの道を歩き続けてきたことを確認しあった。

そして、何かやり過ごしてしまったことや中途半端な人生を振り返り、残された時間を思った。

勤め上げるつもりだった会社を数年前に辞めた理由を有ちゃんが話してくれた。
詳しくは言えないが、その会社でようやく手に入れた地位や立場、収入を手放したことは嫁さんには悪かったと肩を落としていたが僕は言った。
それは自分でもそうしているに違いないし、人間として正しい選択だったと。
何も変わっていない。
誇りにできる真友だ、やはり。

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人生の目的は金を得ること?
社会的に成功すること?
違う、違う、絶対に違う。

どんなにそうなったとしても、それらは即幸福と結びつかない。
そうなって逆に不幸のどん底に落ちた人たちをたくさん見てきた。
人間性を破壊され、自分の欲望のままに突っ走った者の成れの果てを。
人を人とも思わずに利用して捨て去る、あまりにも冷たい心の行き着く先を、僕たちには既に見ている。

本当に大切なことは、家族や友人との強い絆だったり、当然健康であること、何より自由な時間と心。
そんなものだったりする。
そして、今ここに、こうして何の障りもなく語り合える一生の友のいる幸福。

「有ちゃん、寒くはないの?家の中に入って喋ったら?」

家から熱いコーヒーを2杯、わざわざ差し入れてくれたカミさんが笑った。

その優しさを飲み干し、いつまでも尽きない話に後ろ髪を掴まれながら、そこは大人になって昔のように朝までは引き延ばさず、腰を上げた。

時計を見ると、2時間が経過していた。

昔の窓にフィルム、タイヤは扁平超レーシングワイドタイヤ、どこから見ても暴走族仕様の白色のスカイラインGTから7年落ちの大人しい日産ティーダに乗り換えた有ちゃんを、両手を振って見送った。

有ちゃん、そして僕も、肩を落とすな。
人生の贈り物、もう見つけてるよ。
そばにある一途に貫き守り通したその温もりを。