暮らしぶりはさほどでもなく、麻の衣に青いえりをつけた粗末な装い、
おまけに髪はクシけずらず、クツもはかないで歩いていても、満月のように満ちたりた
彼女の顔が、花のように微笑んで立ってさえいれば、それだけで夏の虫が灯火に
吸いよせられように、男たちの心をひきつけずにはおかなかった。
「どうか私と結婚を!」
男たちが彼女に激しく求婚をしてきたのも無理からぬことだったが、根がやさしい彼女に
してみれば、そういってくれる男のうち、だれを裏切っても申し訳ない気がするのだった。
「ああ、どうしてこんな女に生まれてきたのだろう・・・」
やさしい彼女はふくよかな胸を抱きしめて、美しい顔を涙にぬらす事も度々だった。
そうして思いあぐねる月日が重なるにつれて、いい寄る男が一人去り二人去り、
花も盛りを越し、いつしか婚期をのがしてしまった。身のあわれに思いあぐね、
ついて出たのが次の唄だったという。
"沖の萱島一本松よ
だれも枝折る人もない"
萱島には弁天女が祀られており、昔は女人禁制となっていた。
弁天女のような美人に生まれても、女神の嫉妬心に不幸を招いてしまったのかも
しれませんね。
菖蒲田浜沖の萱島(弁天島)
