⑫

 

「ピンポーン!」

 

勇気を出しインターホンを押す、返事がない。

二度目を押そうか悩んでいた時、

 

「はーい!」

 

軽快な返事とバタバタと足音が聞こえ

穏やかな雰囲気の女性が下りてきた。

この人が鈴木先生か・・?いや、奥様だな。

 

「どちらさまー??」

 

「あ・・えっと・・藤田真平です!藤田家の4番目の!」

 

「あ!しんぺいちゃんね!話は聞いてるわ。ささっ中にいらっしゃい。」

 

「いや!でもばあちゃんと父さんが避難所で待ってるんです!」

 

「大丈夫。何も食べてないんでしょ?食べてからでも遅くないわ。」

 

「でも・・・!」

 

するとひょこっと妹が顔を出した。

 

「しの!!無事だったか!けがはないか!」

 

「大丈夫だよー。」

 

「そっか!良かったなー!!」

 

「母さんたちはどこに行った?」

 

「お父さんたち探しに行くって出かけた。」

 

兄と母、父と祖母のすれ違いが起きるかもしれない。

どちらとも無事に合流するにはどうすべきか。など考えを巡らせていると

なにやら甘い香りが漂ってきた。

 

奥様がホットケーキを作ってくれていたのだった。

甘い香り、温かい空気に触れ自身の空腹に気付いた。

よだれが溢れ、生唾を飲み込んだ。

 

食べたい気持ちもあったが、みんなと合流してから。。

 

など思っているうちに弟は「いただきまーす!」とフォークを突き刺した。

 

「うんま!!・・・すっごい美味しいよ!」

 

奥様は微笑みながら弟が食べる姿を見ていた。

 

「ほら。しんぺーちゃんも。」

 

そう言われ1切れを口に運んだ。

 

「・・・・ッ!」

 

体中にしみる味だった。

メープルシロップの甘味、香ばしい香り

揺れ始めてからロクに物を食べてないせいか

体中が鳥肌立つほどおいしかった。

 

「美味しい。。うまいです。」

 

生きている実感と安全な場所なんだという安心感に

張り詰めた糸がほどけ涙があふれた。

 

人生で一番美味しいホットケーキだった。

僕らは夢中で食べた。

 

その後おなかを満たすことができた僕と弟は

奥様の車に乗せられて避難所に向かった。