「ババババ!!!」

朝からヘリが行き来音が聞こえる。

 

夢を見ることもなく朝を迎えた。

「また今日も始まる。」残り湯で口をゆすぎ目覚める。

 

父は誰よりも早く起きていた。

 

朝方は電波が入りやすかったらしく、

手巻きラジオに充電器をさし懸命に充電を行っていた。

 

僕らにできることといえば充電を変わることと

通過するヘリに手を振ることくらいしかなかった。

 

しかし、この日は違った。

昨日よりも水位が圧倒的に減っていたのだ。

 

天気も良く晴れており避難するにはもってこいだった。

 

「お父さん!今なら避難できると思うよ!!」

「俺は最後まで残って全員を避難させる!」

 

頑なに動こうとしない父を説得するのは難しいと思い

僕は祖母と、弟と、何人かを連れて高台を目指すことを決めた。

 

持ってきた荷物を確認し、準備をしていた時

食糧管理をしていた人が声をかけてくれた。

 

「これも腐っちゃうから持っていきな!」

冷蔵庫に残っていたイクラをタッパーごとカバンに入れてくれた。

 

 

美味しかった。全身に染み渡るほどうまかった。

が、塩気が強く喉が渇いてくるのを感じたため一口でやめた。

 

 

「さあ行こう。」

 

何人かを引き連れ父と別れた。

 

希望は避難所の掲示板。

兄や母からのメッセージがあるかもしれない。

そう思うと足取りが軽かった。

 

父は残るが今日中に避難すると言っていたので

メッセージがなくとも避難所合流する約束をして階段を下りた。

 

 

下の階におりるたび臭いが強くなっていった。

焦げたような、生臭いような、埃っぽいような。

瓦礫が突っ込んできた部分は引き波で逆に空っぽであった。

 

建物を出ると上から見ていた家屋達が顔を出した。

あんなに小さく見えていたのに、地上から見るとその大きさ。

津波の威力に足がすくんだ。

 

引き波で引ききらなかった海水がいたるところに水たまりを作っていた。

 

靴はびしょびしょになりながらも瓦礫の上や、木材の足場を見つけ徐々に進んでいった。

僕が先陣で足場を見つけ、その後ろを弟や祖母、ほかの避難者たちが続いた。

公園を通り、20分ほどかけて市場に着いた。

普段なら5分ほどで歩く道がとてつもなく遠く感じた。

 

 

一休みしたときに改めて被害状況を確認。

見覚えのある建物はほぼなく、道という道はなかった。

 

 

その後津波が届かなかった地点までなんとか来ることができた。

階段が途中で壊されていたが、代わりに梯子がかかっておりみんなで順を守って登った。

 

避難所までの道に行列を見かけた。

 

見る人見る人全員がポリタンク、ペットボトル等の容器を持っていた。

そのさきには給水車があり、多くの人が水を求め強い日差しの中長蛇の列を作っていたのだ。

 

あいにく僕らは容器も並ぶ時間もなかったため、列を後にした。

 

出発から1時間超をかけ、気仙沼中学校の避難所に到着することができた。