目が覚めると空が白んでいた。

 

外を見ると昨日の火事の爪痕でまだ黒煙が上がっているところが多数見えた。

窓を開けると焦げ臭いにおいが漂っていた。

 

あまり外に出るのは良くないかもとすぐに窓を閉めた。

 

「おはよう」

 

弟が声をかけてくれた。

まだ眠そうだが、疲れた表情だ。

無理もない。中学3年生でこんな経験を味わうとは。

 

「外は煤が飛んでるからあんまり出んなよ。」

 

肩をたたき、トイレに向かう。

朝だというのに真っ暗な道を歩き、トイレに向かう。

当然水も流れなければ、電気もない。ひどい臭いの中、目が慣れるのを待ち、用を足した。

 

戻ってくると弟がモジモジしている。

 

「どうした?」

「しんぺあんちゃん・・・・・。」

「ん?」

「・・・腹減った。」

「これ食いな。」

 

昨日配られたおつまみをポケットから出し弟に渡した。

 

 

「ありがとう。」と同時に弟はまた勢いよく食べ始めた。

 

 

 

「いいか。これから食い物は大事に食べるんだぞ。」

「わかった。」

 

 

食料、飲料どちらも大人が管理しているから

どのくらいあるのかを確認することはできなかった。

ただ、全員分が満足にあるとは思わなかった。

 

 

口をゆすぎたい。

そう思った僕は大浴場の残り湯で口をゆすいだ。

 

入浴剤のような味がしたが

水分であることは変わりない。

不快さを堪えながら口を湿らせた。

 

 

 

日が上がり改めて惨状を目の当たりに。

 

水位が下がり、火の手も落ち着き始めてきており

 

津波に流されてきたものたちの残骸が良く見えた。

 

 

壊れた家の屋根。柱。

ひしゃげた車。傾いた倉庫。ひっくり返った船。

焦げた家屋。謎の衣類。

 

自分たちのいる階と地上がまったくの別世界に感じた。

 

 

 

避難者の1人が声を上げた。

 

「高台に避難する。一緒に行く人いたら行こう!」

 

内陸部は瓦礫が多く、安全に歩けない。

朝の水位が低い内に沿岸部を歩き高台を目指す。

とのことだった。

 

不安でいっぱいだった僕は父に相談したが

返事は予想外だった。

 

「行かない」

「なんで!?行こうよ。」

「俺は一番最後に出る。」

「なんで!早くここでたいよ!」

「俺らが出たら残った人どうやって逃げっけ!」

 

その一言に驚いた。

僕は自分自身のことしか考えていなかったが

父はそこに避難していた方々全員のことを考えていた。

 

配慮が足りなかったことに気付き僕らは残ることになった。

 

 

 

避難することを決めた人たちが去り

人数は半分ほどに減り、若年層は僕らだけとなった。

 

 

「ババババ!!!」

 

何かが来る音が聞こえた。

急いで外に出ると救助ヘリの姿が。

 

「おおーい!!!」

「こっちにいるよー!!」

 

必死に手を振ったがヘリが止まることはなかった。

 

それもそのはず。僕らが避難した一景閣は指定避難場所にされていなかったのだ。

 

無情にも通り過ぎるヘリの先には公民館があった。

昨日は見えなかったが、公民館の上には多くの人がいた。

 

屋根もなく人々が寄り合って暖を取っていたようだ。

それに比べれば屋根もあり、布団もあり、トイレもある一景閣の

優先順位が低くても分からなくない。

 

 

その日何度も上空をヘリが通過したが止まることはなかった。

 

 

停電になると驚くほど真っ暗になるのが早い。

5時にはもう深夜と変わらない暗さになっていた。昨日と違ったのは

燃えているものがないため本当に真っ暗な世界に包まれていた。

 

電波もなく、食料もなく、できることは自我を保ち明日への

体力を温存することしかできなかった。