⑦
定期的に火の行方を確認。
火が流れてきてないか、引火してはいないか。
交代交代にラジオを巻く。
それぞれがやるべきことを見つけ少しずつ落ち着いてきていた。
ちょくちょく余震は続いたものの
震度7レベルを経験した後はたいして怖くなかった。
恐れるのは大きく揺れたのちに発生する津波。
それにより火種が流れを変え引火することだった。
館内が現実として受け入れ始めたころ
避難してきた一人が、ホテル内から食料と水を持ってきてくれた。
小分けにされたおつまみの大袋2つと
2Lペットボトルが3本。
避難してきていたのは30人弱。
全員が満足に腹や喉の渇きを癒せる量ではなかった。
それでも、
一杯に満たない水を噛み締め、口内に行き渡るよう時間をかけて全員が口に含んでいた。
おつまみもその場で少し食べる者、そのまましまう者。様々だった。
僕は後者でどうしても腹が空いたとき様に取っておいた。
弟はもらった瞬間に袋を開き食べ始めた。その勢いに思わず驚いき
「おなか空いてたのかな」と少し和むことができた。
食べ終わって落ち着いたのか弟は座り込み
持ち寄ったDSの電源を入れ始めた。
辺りに「ピコーン」と音が鳴り、周りがこちらを振り向く。
僕は弟の手を止めた。
「さすがにここではやるな。」
状況を理解したのか弟はすぐに電源を落とした。
疲れたのだろう。
少しでもさっきまでの日常に戻りたかったのだろう。
手を止めたときの悲しそうな顔は今でも焼き付いている。
水位は5~6mはあったが、波は落ち着き、海上に火が右左と揺れている。
避難することもできない、いつ火が流れてくるか分からない。
食べ物も飲み物も限られている。どうしようもできない状況下で僕は
「もう寝とけ」としか言えなかった。
弟は静かにうなずくと部屋の隅で横になった。
父は祖母と窓際で燃える家をじっと見つめていた。
真っ暗な中時計を見てもまだ9時になっていない。
1日がこんなに長く感じたのは後にも先にもない。
静かに僕も気が遠くなっていった。