父、祖母、僕、弟の4人で

愛車グランヴィアに乗り込み避難所を目指し出発。

押さえきれない不安とドキドキ。


初の避難所でワクワクしてしまっていたが

その気持ちはすぐに消えることになる。

 

出発した二分後。車が止まったのである。

 

何事かと外を見ると、大渋滞。

 

避難所に向かうには坂への1本道を進まなければならない。


各道路からその道に同じ考えの車達が

なだれ込んでいたのである。

 

当然信号も停電し、交通規制は取れず

運転手たちは怒鳴り散らしている。

 

「はやぐ進め!!!」「邪魔だ!!!」

 

クラクションと怒号が鳴り響く中、本当に非常事態なんだと感じた。

 

父はその光景を見て大きくハンドルを右に切って進行方向を海に向けた。

 

「え?お父さん?そっちは避難所じゃないよ!!」

 

「このまま待ってでも流されで死ぬだげだ!!一景閣に避難すっぞ!」

 

一景閣とは自宅から徒歩二分ほどの場所にあったビジネスホテルのことである。


6階建ての建物で住んでいた地区の中では

二番目に高かったが、市場や海がとても近く

津波が来るとすれば倒れる可能性も否めなかった。

 

しかし、高台に登れずにそのまま流されるよりは生き延びる可能性があると見たのだろう。

 

まもなくして自宅の駐車場に車は止まった。

 

「はやぐ避難しよう!!」そういう僕に父が言った。

「真平、倫平、ばあちゃん連れで避難しろ。俺はいがねえ。」

「え・・・・?」

「お父さんも避難しようよ!」

「俺は一家の主だ。俺が家を守る。」

「何言ってんの!行こうよ。」

「いがねえ。はやぐ一景閣さいげ!」

身が裂かれる思いだった。

 

なんで家族一緒に避難しないの!

津波に家が飲まれたらお父さん死ぬんだよ!?

 

どんなに説得しても聴かない父を後に僕と弟、祖母の3人で避難した。

 

 

祖母は弟が手を引き、僕が先頭を切って歩いた。

一景閣の中は停電していて物が散乱していたが、自宅に残るよりかは安心できた。

 

「屋上からお父さんの安否と津波が来るのを見よう」

 

そう思い暗闇の中三人で上まで上がった。

 

最上階まで行くとそこには近所のおじさん、おばさんがいた。

 

「大丈夫だったの!?」

「中学校行こうとしたけど、渋滞で引き返してきた!

ただ、お父さんがまだ家に残ってる。。」

「なんだべ!!なんで止めながった!!」

「お父さんが家を守るって言ってきかなかった。。」

 

そんな会話を売り広げながら窓をみると、

父が3階のベランダから手を振っていた。

 

「秀――――――!!」

父秀一郎の愛称を祖母が叫ぶ。

「父さーん!!!」

弟と2人で続いて叫ぶ。

 

声は届いているがどうしても届かないその手。

歯がゆく思った。

 

サイレンと警報が鳴り続いても、父と僕らの距離が近づくことはなかった。