いらっしゃいませ

 

ロシア軍によるウクライナ侵攻がもう3週間になります。

ウクライナというと映画「ひまわり」が浮かびます。

首都キエフの南で撮影されたという地平線まで拡がるひまわり畑。その美しさに魅せられ、小田和正がオフコースのファイナルコンサートで「言葉にならない」で高額の使用版権料にもかかわらず使用したことも有名です。

その美しい風景とは裏腹にこの花の下にはロシア兵もイタリア兵も埋まっているというセリフに震撼とさせられました。

さて今回の作品はプーチンが1999年の8月に首相に推され、その一か月後にチェチェンに進攻した第2次チェチェン紛争を舞台に、両親を目の前で殺され、ショックで声を出せなくなった少年ハジと、ハジを探す姉ライッサ、ハジを助けるEU職員キャロル。また、普通の青年がロシア軍に強制徴兵され人間性を失っていく姿も絡ませ、戦争の悲惨さを表現していきます。

ハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)とキャロル(ベレニス・ベジョ)

 

ここで描かれている風景を見ると、今ニュースで流されている風景そのままであることに驚きます。

全編ハンディカメラで撮影されていることもあるのでしょうが、今の戦闘の映像を見ているようです。

ハジの弟を抱いて避難する姉のライッサ(ズクラ・ドゥイシュビリ)

 

 

軍事拠点へのピンポイントへの攻撃から無差別攻撃に変質してきた今の状況にとても似ているように思います。

ただこの作品は決して戦闘シーンを多くは使用しておりません。

ほとんどないといってもいいかもしれません。

あくまでも「人」を対象にしている作品です。

ですからチェチェン側から見れば加害者側であるロシア兵も悲惨なとしか思えません。音楽好きの青年コーリャは古参兵などにいたぶられながら次第にそれまでのモラルを喪失し、初の戦闘では慌てふためいていたのが、人を殺すのが当たり前に変質していく様は気味が悪くなるくらい恐ろしい変化です。

 

ハジを助けるEU職員のキャロルの奮闘も決してヒーロー的には描かれておらず、何とかこの「戦争」を世の中の人に知ってほしいという思いに、反応しない人々への苛立ち。

戦闘の悲惨さがわかっているはずで、同じ方向を向いていると思っていた同僚ですら、「他人」の戦争としかとらえていないという姿。

そういったものへの自分の身の置き方の不透明さ。

ベレニス・ベジョはとても繊細に演じています。

 

ハジを演じるアブドゥル・カリム・ママツイエフは表情がいい。

いつも何かを疑っているような、うちに入り込んでいるような眉尻が下がった表情はこの役にぴったりです。とても素人とは思えない。

この子のダンスはほんとかわいいい!

ベレニスもこの子がいてこそ演技に入り込めている感じです。

 

地味な作品と思う方もいるかもしれませんが、とても良作だと思います。今のウクライナを知るにも良いのではないでしょうか。

SNSの戦争ともいわれ、フェイクも含め情報拡散され、チェチェンの時よりも多くの人々が認知している今回の戦争だと思うのですが、やはりSNS中心になった分見る人のみが見るになっていなければよいと思います。

でもちょっと不思議な気もしています。

この戦争の世界的な注目度。こういうことは注目され、世界が反対し、世界の目が過激化を抑えられればいいなと思いますが、注目度が高い原因には先進国が仕掛けた戦争、白人同士の戦争というのが大きいのではないかとも思ってしまいます

アフリカのソマリアで戦闘があっても相手がアメリカだと「ブラックホークダウン」のように映画にもなるけど、アフリカの国同士だったらこんなにも世界が注目したのだろうか。

そういう人たちだよねって思っていなかったか。

そしてもし日本が戦場になることがあったとき、白人社会は黄色人種を助けてくれるのだろうかとも思ってしまいます。

平和なのだから、それを享受すればいいとも思いますが、全く知らないというのはどうなんだろうと思います。

何もできなくても知っていることは大事ではないかと。

ほんの少しでも何か出来たら素晴らしいなとも思います。

 

       キャロルとヘレン(アネット・ベニング)

脇役なのですが赤十字の職員ヘレンを演じるアネット・ベニングがとても良いです。歳をとっても素敵ですが、主人公がいるようで、皆が主人公という揺れ動く登場人物の中でしっかりと芯を通している人物を演じています。

 

ぜひ見ていただきたい隠れた良品かな。

 

では、ごゆっくりお過ごしください。

 

 

2014年 135分 フランス、グルジア合作 配給 ギャガ

原題 The Search

Staff

監督 ミシェル・アザナビシウス

製作 トマ・ラングマン、ミシェル・アザナビシウス

製作総指揮 ダニエル・ドゥリューム、クリストファー・ウッドロウ

         モリ―・コナーズ、マリア・セストーン、サラ・E・ジョンソン

原案  フレッド・ジンネマン

脚本  ミシェル・アザナビシウス

撮影  ギョーム・シフマン

 

Cast

キャロル(ベレニス・ベジョ)

ヘレン(アネット・ベニング)

コーリャ(マキシム・エメリヤノフ)

ハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)

ライッサ(ズクラ・ドウイシュビリ)

 


2022/3/17 Shichirigahama