いらっしゃいませ

 

「ありがとう!ありがとうね!」

タイガーさんは上映後の撮影会で

一人一人に優しい声で挨拶をしていた。

 

 

新宿の街で皆さんは見たことがあるでしょうか

雨の日も風の日もド派手な服装にタイガーマスクのお面をかぶった人を。  人呼んで「新宿タイガー」。

なんと40数年このような姿で暮らしているのです。

タイガーさんはなんと新宿タワーレコードのオープンとリニューアルのポスターのモデルになったこともあるのです。

そんな偉大なタイガーさんがどうしてタイガーさんになったのか、

タイガーさんて何を考えているんですか

なんてことをに迫ります。

なかなか実像は露わになりません。

ただ、話の断片を継ぎ合わせると、1970年あたりに長野県松本市から上京。大東文化大学に入学するも2年で中退。

ここでタイガーになることを決意し、以後そのまま継続。

ただ、どうしてなのは語ってくれません。

「そう思ったんだから仕方ない。直感だ」と。

でも意外なくらいにお面を取った素顔を見せてくれます。

顔に付けているのは覆面レスラーのマスクでは無く、縁日で売っていたのを爆買いしたお面ですから、そのままでは食事は取れません。その時は外しているようです。私がテアトル新宿に開演よりすごく早く到着したとき、待ちスペースで派手な格好のおじさんがお弁当食べていました。タイガーさんだったのです。

彼は金などには興味が無い。人生にはシネマ、美女、酒、夢、ロマンがあればいい,と言います・

似たようなことを口にする人はたまにいますが、実際に40数年実行してきた人はそうそういないのではないでしょうか。

 

実際生活には日々、酒と美女が離れません。

毎晩のように酒を飲み、時には女優さんなど美女と飲みます。

そうしたとき、タイガーさんは恐ろしく饒舌です。

そして人を褒めます。褒め尽くします。

タイガーさんは映画好きです。

愛してやまない作品は「ローマの休日」。

タイガーさんは大きなスクリーンのところでも一番前の中央に座るそうです。一番集中してその世界に入り込めるからだそうです。

本編が始まり暗くなると、そっとお面を外すそうです。

その表情は口を半開きで目を輝やかせています。

まるで初めて映画に触れた少年。

69歳にしてこんな表情で映画に触れられるなんて。

どうしてそんな表情ができるの?

 

タイガーさんはたった今観た映画の感想を求められます。

決してけなしたり、評論めいたことは言いません。

すばらしい。最高!傑作!

 

タイガーさんは、花束を買います。

それを持って、友人の舞台の初日などに挨拶に行きます。

浅草の芝居小屋まで電車で行きます。

あの10キロはあろうかという小物を背負って、お面をかぶって。

花束を大切そうに抱えて。素敵です。

そしてお気に入りの舞台女優を褒めちぎります。

作中、タイガーさんは「連合赤軍浅間山荘への道程」「キャタピラー」で有名な故若松孝二監督を尊敬していると言います。

生前偶然に会ってご飯をごちそうになったこともあるそうです。

その若松監督の「キャタピラー」の主演の寺島しのぶが今作品のナレーションをつとめています。

そういえば、映画を観るシーン。実際上映されているのは違う作品なのに、タイガーさんの大好きな「ローマの休日」が流されているような演出がされています。

それもこれも佐藤慶紀監督のタイガー愛の表れですね。

 

タイガーさんはその行動を「世界平和」のためと言います。

かつては、暴力を振るわれそうになったり、暴言を吐かれたりがあったそうです。いまは「きもい」が一番多いとか。

さすがのタイガーさんも、いらっとしたりするときもあるそうです。

そうしたとき、「がまん」するそうです。

「怒りというエネルギーは、外にはき出すのでなく、自分の内に使うものだ」といいます。

下手な映画を観たときも、どこか良いところが一瞬でもあれば満足。つまらない体験をさせてもらったことが楽しいとか。

全てが「肯定」です。

マイナスのオーラを出さないから、こういう異形の人でも多くの人たちがついてきてくれるんだなあなんて感心。

 

 

結局はっきりと、タイガーさんがタイガーになる理由ははっきりしません。自分は新宿の街で虎になるんだと思ったからと言うだけ。

 

1972年タイガーさんは学生をやめています。

その時代はベトナム戦争真っ盛りで、世界的にも反戦運動が盛んでした。69年には新宿でも新宿反戦フォークゲリラがあり、機動隊と衝突するなどの事件がありました。

そうした一連の学生運動、政治体制との対決。そうしたものがタイガーさんには重かったのかも知れません。

でもタイガー青年は自分なりの平和への想いを何とか表現したいと悶々としていたのではないでしょうか。

そこに登場したのが1969年からアニメで登場した梶原一騎原作の「タイガーマスク」。孤児院の恵まれない子供たちの為にファイトするヒーロー。それに自分が嵌ったのかも知れません。

若松孝二監督を尊敬するのも、若松監督が強いものに対する弱者、または変えようとするものを描いていたということにつながるのかも知れません。

上映後の撮影会。

一緒に写真を撮ると幸せになるという都市伝説そのままに、

タイガーさんの「ありがとう、ありがとうね」という声は、私も幸せになった気持ちにさせてくれました。

「ありがとう、ありがとね」は劇中でも繰り返し言っています。

とても耳に残る「ありがとう、ありがとね」。

感謝の気持ちに、少しのもの悲しさを感じる言葉でした。

 

ではどうぞごゆっくりお過ごしください

テアトル新宿 オリジナルドリンク「新宿タイガー」

 

2019年 日本 配給 渋谷プロダクション

Staff

監督 佐藤慶紀

企画 小林良二

プロデューサー 塩月隆史

撮影 佐藤慶紀、北村朋允

編集 佐藤慶紀

音楽 LANTAN

写真 須藤明子

Cast

新宿タイガー

矢嶋智人

渋川清彦

睡蓮みどり

井口昇

久保新二

石川ゆうや

里見瑤子

宮下今日子

外波山文明

速水今日子

しのはら実加

田代葉子

大上こうじ

 

2019/4/5 Shichirigahama