いらっしゃいませ

 

今日の作品を私はこの冬、No.1の作品ではないかと思います。

女の、女の為の戦争!

「女に殺されると天国には行けない」

イスラム教徒の男が最も恐れること

 

物語は2015年にIS(イスラミックステート)がクルド人自治区に侵攻した事件に着想を得ています。

主人公バハール(ゴルシフテ・ファラハニ)は弁護士をして、家族と平和に暮らしていたが、ある日ISの襲撃を受け逃げ遅れ、男たちは皆殺し、女子供は拉致され、性奴隷にされ、飽きられると売り飛ばされることとなる。

しかし、売り飛ばされた先の控え室のテレビで、クルド人自治区の女性代議士がインタビューで電話番号を言い、連絡をくれれば必ず救出に行くから連絡してと、多くの同胞に呼びかけるのをみて、見つかれば殺されるのを覚悟で連絡を取り、命からがら助け出され、ISの占領地域から脱出する。

彼女は一緒に脱出したラミアの「被害者でいるより戦いたい」という言葉に心を動かされ、別れ別れにされた息子の救出の目的のため、女性戦闘員となる。

彼女はやがて戦闘で捕虜としたISの兵士から、放置された街にあるISに捕らわれた子供の洗脳教育のための「小さき獅子たちの学校」があると教えられ、街に続く、地雷の仕込まれた地下道に入ることを決意する。そうしたバハールの行動を、戦闘に巻き込まれ片目を失ったフランスのジャーナリスト、マチルド(アマニュエル・ベルコ)の視点で描かれていく。

 

 

クルド人は2千500万人から3千万人いると言われる国家を持たない世界最大民族です。

トルコ、イラク、シリアなどに居住していますが、山岳信仰とも言えるヤズディ教徒をかかえ、その宗派はキリスト教、イスラム教、ゾロアスター教などが混合された宗教と言われ、一神教ながら多神教崇拝と言われ、極端な一神教崇拝のISからは異教徒として敵対意識され、ISの奴隷容認の犠牲者になりました。

 

冒頭の顔中灰だらけの女性の顔。いきなり作品世界に引き込まれます

この作品、戦争映画のようですが、決してそうではありません。

女性の視点で、極限の中で自らの尊厳を守る女性たちがいるということを

世界に知らしめるための作品です。

ハリウッド映画のようなドンパチはほとんどありません。

しかし、バハールの過去の回想を現在の中に織り込み、それが緊張感を生みます。

特に脱出するシーンは圧巻です。検問を越えた後の、残り30m。

ここはこの作品のハイライトです。

このような、回想部分の丁寧な作りが、この作品に重みを持たせており、単なる女性戦闘員の格好良い映画にしていないのです。

「これだから、私たちは戦うんだ」という理由を言葉でなく、描いているのがとにかく素晴らしい。

このシーンは逃走の車の中の情景ですが、ひとつ前のヒジャブと呼ばれる頭だけを隠す姿から、目だけを出す二カーブ、アバヤ姿になっているのも、ISの厳しい戒律を示している物として描かれており、それを脱ぎ捨てる姿は、自由への雄叫びとも、現代の女性の意思ともとれて

ここも象徴的な場面でしょう。

彼女たちは女性戦闘員ですが、どこまで訓練されているかは判りませんん。

なんとなくひ弱に見えたりするのも、以前は普通の職業の女性だった感があります。

でも、そんな女性たちが立ち上がったのだと言うことが、アメリカ海兵隊の女性とは明らかに異なると言うことが判り、、悲惨さと共に勇敢さに驚かされます。

彼らは歌います。

彼らは私たちを強姦する。でも私たちは彼らを殺す。女に殺されると天国に行けない。女の声におびえる。女が来るぞ。女が来るぞ。

準備は万端だ

 

バハールとマチルドは、同じように子供がいると言うことなどからだんだんと親密になります。

両者は子供のために涙します。でも、仲間の兵士が殺されるシーンでは決して泣きません。突き放して描かれます。

女性の任務に対する真面目さ、戦闘員としての自覚。そういった隙間に垣間見える母性。涙が弱さではないのです。

バハールを演じるファラハニ美しいです。「世界で最も美しい顔100」に4年連続トップ10入りは伊達じゃない。横顔もなんてきれいなの!

目の力にはこの作品にぴったりの意志の強さを感じます。

 

彼女は現在亡命中なのですね。イラン政府の映画検閲に抗議して、ヌードになったりして、イランには帰ると身に危険があるそうです。これは彼女自身の自由への抵抗なのですね。

 

頭に巻いた赤に花柄のスカーフがこれほどに合う女性が他にいるのでしょうか。この姿を見るだけでも価値あり!

マチルドのエマニュエル・ベルコも素晴らしいです。

一見強そうで、自らも銃を持って戦いそうな彼女ですが、彼女の武器はカメラとペン。上の写真のシーンではありませんが、戦闘に従軍するときの、半分死を恐れているような表情がすごい。どうしてこんな表情が出来るのでしょう。

 

「人は悲惨な物から目を背ける。無力とは思っても、真実を伝えるべきだと思う」

 

 

私はこの作品がこの冬No.1の作品だと思います。

 

それでは、ごゆっくりお過ごしください

 

 2018年 フランス、ベルギー、ジョージア、スイス  111分 

配給 コムストック・グループ、ツイン

原題 GIRLS OF THE SUN

監督、エバ・ユッソン

制作 ディダール・ドメリ

脚本 エバ・ユッソン、ジャック・アコティ

撮影 マティアス・トゥルールストルップ

美術 ダビッド・ベルサネッティ

編集 エミリー・オルシニ

音楽 モーガン・キビー

 

CAST

バハール(ゴルシフテ・ファラハニ)

マチルド(エマニュエル・ベルコ)

ラミア(ズュペイデ・プルト)

アマル(マイア・シャモエビ)

ベリヴァン(エビン・アーマドグリ)

ノファ(二ア・ミリアナシュビリ)

ティレシュ(エロール・アフシン)

 

2019/1/26

Shichirigahama