いらっしゃいませ
今日はニュースゼロで日テレプロデューサーのトランスジェンダーの谷生俊美さんを拝見し、この作品を思い出し見たくなりました。
アメリカの作品ですが、ハリウッド映画とは対局の小品。穏やかな気持ちになれます。
物語は妻を亡くした75歳のハル(クリストファー・プラマー)から、実は自分は「ゲイ」だ。今後はその道に進みたいとカムアウトされた息子オリバー(ユアン・マクレガー)の物語。
父はその後「ゲイ」の道にまっしぐら。とうとうアンディ(ゴラン・ビシュニック)という恋人も作ってしまう。一方、オリバーは幼少期のトラウマもあり、女性とつきあっても長続きしない。そんなオリヴァーは父の死で塞いでいたが、パーティーで女優志願のアナ(メラニー・ロラン)と知り合う。新しい恋の予感。果たして成就するの?
父ハルと恋人アンディ
女優志願のアナ
物語はアメリカ映画とは思えない様な、端正なオープニング。父の遺品を片付けているシーンから始まります。自分の家まで持ってきたのはわずかばかりの品と父の愛犬アーサー。
監督マイクミルズが、じっと見つめることの出来る犬ということで選ばれたそうです。
ジャックラッセルのアーサー 超かわいい!
LGBTを題材にした映画です。
でもこの作品には迫害とか差別とかネガティブな部分はあまりありません。
むしろ明るいと言って良いかもしれません。
父ハルは老若ゲイの集まるパーティーに出席するなどとても積極的に活動し、ゲイクラブにも入会し友達もたくさん出来ます。
活動は政治的な手紙を書いたり、映画鑑賞会を開いたり。
映画館鑑賞会では以前にご紹介しました、初めて公職にゲイと公表した上で当選した「ハーヴェイミルク」を観る会だったりして私としては思わずクスッと笑ってしまうシーン。
退院して帰ってきたハルを歓迎するゲイクラブの人々
とにかく楽しそうで、生き生きしています。思わずこちらまで嬉しくなるます。
同じ価値観の人々が集まっているからと言うこともあるでしょうが、とても楽しそう。
しかしそんな彼にも病魔が。
でも彼には恋人アンディがいます。ハルが素っ気ない態度をとっても彼は優しくハルに接します。献身的といっても良いくらいハルを喜ばせよう、元気づけようとします。
それを見るオリヴァーも違和感が消えていくようです。
一方のオリヴァー。実はこの作品、オリヴァーのシーンは現代。父とのシーンは回想シーンとなっています。現実のオリヴァーは父の死後、喪失感から激しくネガティブになっており、アートディレクターとしての仕事も絶不調。昔の恋人の似顔絵を描いたりしているほどにネガティブになっています。
元カノの似顔絵です。日本人ぽい名の子もいますよ。
ただオリヴァーもパーティーで知り合ったアナと良い感じになれます。
でもオリヴァーはまた過去の娘たちに対したと同じように失敗を犯そうとします。
その失敗とは。
かつて父はオリヴァーに言っていました。
「ライオンをすっと待っていたがライオンは来ない。そこへキリンが来た。おまえはどうする?」
オリヴァーは「ライオンを待つよ」と答えます。
「だからおまえが心配なんだよ」
これがこの作品のメインテーマ
自分の両親の形ばかりの夫婦像がトラウマになり、どうせだめだと先に進もうとしない。
恋に奥手で、変化を望もうとしないオリヴァー。
一方ハルは妻と結婚したときに、妻に自分はゲイであるとカムアウトし、妻は「私が直してみせる」と、承知の上で結婚したが、それはハルという人格を認めた物ではなく、否定した物であり、ハルは受け入れられなかった。そしてその死によって初めて自己を解放することに成功する。
本当の自分を遅まきながら手に入れたハルは幸せのままこの世を去る。
つまり彼はそこでライオンでなくキリンを手に入れたのです。
キリンに例えたのは、首を長くして待ったに例えた?それとも、高いところからきちんと世の中を見ると言うこと?
オリヴァーも自由に羽ばたこうとしているアナによって気づかされる。
一歩踏み出してみなければ、判らないではないかと。
これがこの映画のタイトルに由来しているのですね
いつもオリヴァーと一緒の、父の忘れ形見の愛犬アーサー。
この映画での彼は重要な役割を果たしています。
話しかけるオリヴァーに「150の言葉は知っているけど話せないんだよ」と心の言葉を吐くアーサー。ずっと父とオリヴァーを見てきたアーサーは、オリヴァーのふがいなさから、アナが出て行ったときには「こうなることは前から判って」たとつぶやきます。
どこに行くときにも一緒についてきてお留守番が出来ない。預けても騒ぐから預けられない寂しがり屋のアーサー。でもオリヴァーがとうとう一歩を踏み出すとき・・・
この作品のなかでLGBTに対して批判的なところはほとんどありません。
唯一、ハルの恋人アンディがオリヴァーに対し、「連絡もよこさないし、会いにも来ないのは自分がゲイだからかと問いただすところだけでしょうか。
冒頭でも書きましたが、とてもさらりと、当たり前のことでしょと言わんばかりにキスシーンが出てきたり、レインボープライドの説明をしようとしたりとします。
このさらり感と、ハルとアンディの仲良しシーンの後、必ずのようにでるオリヴァーの表情。
これは現代のLGBTお方々を見る多くの方を表現していると思います。好奇の目。
そういう物が総じてさらっと描かれることに好感を抱きました。
ハル役のクリストファー・プラマーがアカデミー賞助演男優賞を史上最高齢で受賞したことでも有名ですし、この作品はLGBTの方のみならず知られている作品蛇と思いますが、多くの方に観ていただきたい好作品だと思います。
そしてもう一つ。いくつになっても変わることは出来る。という人生の楽しみを教えてくれる作品です。
音楽が素敵です。1920年代。黒人で自らジャズの創始者と名乗るジェリー・ロール・モートンを中心にクラシックジャズ、クラシックブルースが流れます。
幼少時のオリヴァーが流れている彼らの曲について「暗い」「重い」というようなことを言います。それに対し母親が「苦労をした人たちのだから」と答えます。
そういえばこの母も、自分がユダヤ人のハーフデあることを、夫のハルに隠していたのでした。
人種差別もこの作品には織り込まれているのですね。
このような作品をまた見ていきたいと思います。
ではどうぞごゆっくりお過ごしください
原題 Biginners 2010年アメリカ 配給 ファントム・フィルム・クロック・ワークス
スタッフ
監督 マイク・ミルズ
脚本 マイク・ミルズ
撮影 カスパー・トゥクセン
音楽 ロジャー・ネイル
デビッド・プラマー
ブライアン・レイチェル
キャスト
ユアン・マクレガー(オリヴァー)
クリストファー・プラマー(ハル)
メラニー・ロラン(アナ)
ゴラン・ビシュニック(アンディ)
2018/11/21 shitirigahama