福島事故 2024 その11: 海水注入 | 夢破窓在のブログ

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福島事故 2024 その11: 海水注入

恒例の福島事故の話、毎年同じ内容になりますが、視点を変えてみる努力をしながら、問題点を挙げてみようと思います。



おなじみの図ですが、改めて見直すとおかしなところが散見されます。
15時30分に電源が切れた時の炉の発熱量と18時過ぎに燃料棒が露出した時の炉の発熱量とでは3時間近く差があるのですから、炉の発熱量は大幅に低下している筈です。
こんな一直線に下がることは考えられない。
狭い範囲ですからそこまで表現出来なかったのかも知れません。

5時50分に淡水を注入したのに、1m程水位が下がっている、何故か?
排圧弁が開けられてボコボコと水が沸騰して水位が下がったが、注水量が一時的に追いつかなかった可能性があります。
以降15時50分まで注水を続けたのに水位が上がる気配がない。
15時30分にベントバルブを開放するまでは、75気圧の圧力容器
への注水になります。
排圧弁を開けば注水可能ですが、すで7~8気圧になっている格納容器が持たない、通常の消防ポンプでは7~8気圧の力も出せない。
僅かずつ、格納容器のご機嫌を伺いながら10時間近く注水を続けたが水位は殆ど上昇しなかった。
と言うか水位を下げずに維持出来たと言ったところでしょう。

問題なのはベント後の話、私のメモにはこうあります。
 14:53     8万リットル注水完了
8万リットル(80トン)の多くが、ベントバルブが開放されて格納容器の圧力が下がり、排圧弁を開けて消防ポンプで容易に注水出来るようになってから注水されたものと思われます。
8万リットル(80トン)の注水を行っているのですから、水位は4.4mほど上昇していなければならないのに、上の図には形跡がありません。

14時50分ごろ淡水注入停止。
4m水位が上がって、燃料棒の底に水が届くかどうか?
こんな時になぜ注水を停止したのか?
用意した淡水が無くなったから。
そこで東電は海水の注入を行う事になりました。
本社にこれを連絡したところ、この話を聞き及んだ男が言いました。
再臨界の可能性があるから海水注入をやめろ!

再臨界が起きる可能性などあったのか?
制御棒は挿入された位置にある、燃料ペレットも鞘の中で多くが下に落ちてはいない。
こんな状況だったとしたら、水を幾ら足そうが制御棒が挿入された状態では臨界など起きようがない。

燃料ペレットの多くが圧力容器の底に落下している、制御棒も熔けて落下している、これでは制御棒が効いて臨界など起きようがない。

燃料ペレットが底に落下しているのに、なぜか制御棒は無事で高いところにある。
圧力容器の水は殆ど無くなっている、そんな状態の時に海水を注入したらどうなるのか?
もしそこで臨界状態になるものだとすれば、臨界は海水注入時ではなく、14時30分から80トン近い淡水を注入した時に臨界状態になっているのではないか?
海水注入時には先の臨界で発生した毒物質が健在で、海水注入時には臨界にはならない。

軽水炉では核分裂で発生する毒物質(キセノン135他)に邪魔されても核連鎖反応が継続するように、中性子減速材で大量の熱中性子を作って、ウラン235にも熱中性子が捕まえられるように配慮しています。
毒物質とウラン235との攻めぎ合いで核連鎖反応が継続しているのです。
燃料棒の底に落ちた燃料、連鎖反応の停止後1日以上が経過して、発生する中性子はウラン240の自発核分裂くらいです。
キセノン135の半減期は9時間、生成された内の5分の1は崩壊が終わらずに存在しています。
こんな環境で臨界状態になどなる道理がないのです

考えても見て下さい。
緊急停止をしました。
制御棒が挿入されました。
上から刺そうが下から刺そうが、万一途中で何かが引っ掛かって制御棒の挿入が出来なくなったらどうなるのでしょうか?
何も出来ずにメルトダウン?
神様、制御棒が引っ掛かる事がありませんように

そんな事態に備えてホウ素剤を冷却水に混入させる、これで連鎖反応が停止するかどうかはともかく、最低このくらいの事はしている筈です。
海水を注入しても再臨界は起こりえない、核分裂由来の毒物質に頼らなくても、十分な量のホウ素10が投入できている、そういう確信があったからこそ東電は「男」の指示を無視して海水注入を行ったのです。

米軍が冷却材の提供を申し出たが東電はこれを断った
こんな報道がありました。
炉の発熱を止める冷却剤など存在しません。
米軍が提供を申し出たのは核連鎖反応を停止する「ホウ素10」だと思われます。
せっかく提供してくれると言っているのだから貰っておけばいいのに、と考えるのは当然ですが、すでに十分な量を炉に投入済みだし、在庫は十分にあるし、貰っても意味がないから断ったのでしょう。
ホウ素剤は炉の出力の微調整の為に普段から使われており、緊急停止にも備えて在庫されていたと思われます。

何をどうひっくり返しても「再臨界」など起きる道理はありませんでした。

問題なのは「再臨界」が起きたから何だというのだ?
核連鎖反応の再開」の恐れはあったのか?
JCO事故では臨界状態になりました、一瞬の連鎖で1mgのウランが核分裂を起こしましたが連鎖反応が継続する事にはなりませんでした
JCO事故の場合は沈殿槽を支える二人の方が被害に遭われましたが、福島第一の場合には圧力容器を抱えている人なんていません。
臨界が起きたからと言って、炉の温度がいかばかりか上昇したからと言って何程のことでもないのです。
心配するのなら「核連鎖反応が継続して炉が再稼働するぞ」と言って心配するべきなのです。
原子炉の事など何も知らない「男」が邪魔ばかりしていました

ところでこの表、

この情報は信用できるのか?
再臨界に言及したのは、斑目原子力安全委員長なのですかね?
この人「水素爆発?」でも恥さらしなコメントをしていましたっけ。
水素爆発はあり得ない」と発言したとこまでは良いのですが、後になって発言を撤回してしまいました。
あんな「水素の還流」が起きるなんて、誰も予測が出来ないのだから、撤回はするべきではありませんでした。
水素還流の仕組みが理解できずに、恥の上塗りをしています。

後で「ゼロではない」と修正?
再臨界の可能性はゼロでした
そして心配するべきは「再臨界」ではなく「再稼働」でした。
この話、指図すべき立場の人が、信頼出来る複数の専門家の意見を聞いてから行動を起すべき話なのです。
ちらっと”再臨界”という話を聞いて、知ったかぶろうとして駅弁屋さんは現場を混乱させました。

この人、こんな細かい話を指図する立場ではありませんでした。
将棋で言えば、玉将が歩越しに桂馬のような役割を演じていました。
戦争で言えば、大将が前線に出て行って小隊の行動にあれこれ口出ししているような行動でした。
どんと構えて、大勢を判断するべき人が、中尉のような役割を演じていました。

この駅弁屋さんの行動は愚挙そのものでした。

後日安倍首相が海水注入の問題に言及したところ、この男何を考えたのか?自分のやったことをわすれたのか?安倍さんを訴えて裁判をおこしました。
裁判に負けたのは当然としても、この「指揮者の愚行」を糾弾する動きは今もオールドメディア(マスコミ)にはありません。

参考1:
          熱中性子反応断面積 (単位: バーン)
 キセノン135   2.964Mb
 ウラン235    698.2b
 硼素10      3.841Kb

熱中性子反応断面積は物質の熱中性子の捕獲のし易さを表します。
 バーン=1x10^-28㎡
滅茶苦茶小さい面積の単位です。

参考2:

「福島事故の時の首相が菅直人で良かった」   坂本龍一

(一言)

記事の更新は一日置きに行う予定です。