とにかくフツーの人間ばかりが出てくる泣かせの演出なしの戦争映画。

フィクションの中にしかいないような人格は出てこなかったと思う。
 
戦争映画ってどんなものであろうと泣かせてなんぼのものだと思っていたので
予備知識なくても確実に泣きじゃくる事を予想し、映画館の最上段隅っこでひっそりとひとり鑑賞をした。
けど、予想外にもこの戦争映画は涙が出なかった。
くるか?くるか?と何度も身構えたけども全然来ない悲劇。
かと思えば突拍子もなく消えてしまう晴美ちゃんとすずの右手。
だけど、それでも、そこに生きた人達、そしてすずはフツーでいられた。
 
日本の歴史の中でも特に残酷な時代だったあの中を人はどう生きたのか、私はそのリアルを知らずにいたため、火垂るの墓が広島に生きた人達のリアルなんだと思っていた。
だけど、日本のどこに行っても見る事ができるようなあまりにもフツーな人達が、
この作品の中ではエンドロールが終わるまでずっと人格崩壊する事なくフツーでいたことにホッとした。
だから涙が出ずに済んだ。
 
ただ、すずの兄が戦死し、母が死に、次いで父も死に、すみちゃんも原爆症にかかり、家族全員が戦争の被害者になってるにも関わらずフツーにいるように見えたすず。
あればかりはさすがにリアルな描写かな?と疑問に思う。
広島に原爆が落ちた時点で、どんな悲惨な事になってもおかしくない事と覚悟していたか、あまりにも色んなものを目にし、体感し、もう何も言ってらんない、ただ生き抜く、と強い意志があったのか。
こんな言い方よくないけど、この環境に慣れたのか。
 
すずの境遇を今に生きる私自身に当てはめたら、精神的に参るか、それ以上になるのか、想像すらつかない。
 
あの時代の人達が強かったのか。今の自分たちにもその強さはあるのか。
 
ユーロスペースで映画を観終わり外に出ると、ライブハウスやラブホが立ち並び、夜まで遊んでる若者達を見てそのギャップにくらついたけど、こんな時代になったのもあの人達の苦しみを越えてきた背景があるからこそなんだろうなと思うと、渋谷の平和さ加減が嬉しかった。
 
泣かせないからこそ、しっかり考えろよと言われてるような、はじめての戦争映画。
79点