「桃太郎というやつがボクのお父さんを殺した」

そう言ったのは赤鬼の子どもでした。

 

ボクの村は何度となく鬼に襲われていたのですが、ある日、桃太郎と名乗る少年がキジ、猿、犬を従えて悪さをする鬼たちを退治してくれたおかげで村に平穏が訪れました。

数日後、ボクが薪拾いのために山に入った時のことでした。どこからか視線を感じて辺りを見回すと、山の上の方の木々の合間からボクの村を見ながら赤鬼の子どもが恨めしそうに涙を流しながらそう言ったのです。ボクは子どもの鬼に見つからないように急いで村へ帰りました。また鬼が村を襲うんじゃないかと思うと怖くて数日ほど眠れませんでした。

「いい加減に起きて畑仕事してきなっ。」

「あ、はい。」

数日ほど眠れていないうえにほとんど何も食べていないのでボクは気のない返事をしてしまいました。その態度が気に食わないとぶたれ、頭がくらくらしたのですがボクは黙って立ち上がり畑へ向かいました。鬼退治のおかげで村は平穏にはなりましたが荒らされた畑が元通りになったわけでもなく収穫が出来ず村が豊かになることはありません。桃太郎が来るまでに鬼に襲われて命を落とした人々、鬼退治に加勢して命を落とした人、逃げる際中に命を落とした人、多くの働き手を失ったせいでボクのような子どもも大人と同じぐらいに働かなければなりません。ボクは頑張って畑を耕して作物を育てるために眠れていなくても何も食べていなくても頑張るしかありません。

 

父と母が居れば菜っ葉を沢山入れたお粥を作ってくれて「たんとお食べ」とニコニコしてくれただろう。お姉ちゃんと「美味しいね」と言ってボクと食べてくれただろう。今は何も食べられなくてもボクは町に売られず村に残れただけでもありがたい。だけど、あの子どもの鬼の親である赤鬼がボクの家族を殺さなければボクは食べ物をくれない家で叩かれて畑仕事を独りでさせられることなく、明日という日を待ちわびて眠れたはずなのに。そんな恨み言を言ってしまいそうになります。

 

あの子どもの鬼を見てから数日が過ぎ、またボクは薪拾いに山へ入っていました。するとあの子どもの鬼はボクを見つけて言いました。

「お前は桃太郎か?」

ボクは「違う。」と答え、そこから逃げようと思ったのですが、

「お前はお父さんを殺されたんだろ。ボクはお前のお父さんに家族全員殺された。今だって鬼の君が怖い。鬼は大嫌いだ。だけど!!」

ボクの心がぶわーっと溢れるように言葉がボクの口から勝手に零れてゆきました。子どもの鬼はずっと、ずっと黙って聞いていました。

「だけど!!桃太郎が鬼退治に来る前からボクの村の人たちはお前のお父さんや他の鬼たちに沢山殺されたんだ。だから鬼が怖い、憎い、殺してやりたいと何度も思った。でもお前は誰も殺してない、村を襲ってない。お前は鬼だけど、ボクが憎む鬼じゃない。」

知らぬ間に涙が零れていてボクはもう自分が何を言っているのかわからないくらいにグチャグチャな気持ちでした。なのに子どもの鬼も泣いていて、

「ボクは鬼だ。鬼だけど人間が怖い、憎い。でもお前を憎んじゃいない。」

お互いに泣きながら大声で言い合った。そして烏がなく頃、鬼の子どもは山の奥へと帰り、ボクは薪を拾いながら村へ帰った。

今日も何も食べさせてもらえず、狭い土間でいつも通りにボクは丸くなって目を閉じました。明日は畑仕事だから頑張らないといけないと思いながらボクは久しぶりにちゃんと寝ることが出来ました。次の薪拾いのときにあの鬼の子どもに会えたら笑って話したい。そう願いながらボクは朝が来るのをずーっと待った。ずっと・・・

 

おしまい