モト冬樹が初めて明かした志村けんへの後悔「俺には田代の役割が……」

《盟友の死から1カ月》


「志村さんの追悼番組や再放送を見ていると、亡くなっているのにコントを見て思わず笑っちゃう。普通だったらお笑いでも追悼番組だと笑えないじゃない。そんな姿を見て、きっとあの人は天国で『やったー』って喜んでいると思うよ。

志村さんの追悼番組だから視聴率が上がっている、というのは違うと思うんだよ。こういうツラい時代にこそ、あの人の笑えるコントが必要なんだよ。だから皆見るんだよ。志村さんにはこんな時にこそいてほしかった……」


新型コロナウイルスによる肺炎で3月29日に亡くなったお笑いタレントの志村けん(享年70)の盟友だったモト冬樹(68)が、「文春オンライン」の取材にやり場のない思いを語った。

希代の喜劇俳優の急死から1カ月――。

5月1日には、NHK連続テレビ小説「エール」で、生前に撮影された志村の登場シーンがはじめて放送された。白いYシャツにサスペンダー姿で、口ひげを蓄えた志村は真剣な眼差しと表情で作曲界の重鎮役を演じた。「それがどうした」「本物か紛いものか……、楽しみだね」と、短いセリフながら、俳優・志村けんの存在感は大きかった。

「朝ドラの姿はすごい。だけど、まだツラい」

昭和、平成、令和とコント一筋だった志村と40年来の付き合いがあったモト冬樹は、かねてから「俳優・志村けん」を熱望していた。そのことは志村の入院時の「文春オンライン」のインタビューでもモト冬樹は明かしていたが、朝ドラ出演は改めて衝撃だったという。

「朝ドラに出演している志村さんを見て、あの姿はすごいと思った。もう完全に“志村けん”じゃないんだよ。コントであれだけ“あり得ないキャラクター”になりきって人を笑わせられる人が、どれだけ実力があるかってことだよね。ああいう人が俳優をやったらかなわない。

俺は『俳優としての志村さんの演技がみたい』って何年も前からずっと言ってきたから、朝ドラや主演映画が決まったときに、『志村さん、よかったー』って、志村さんよりも俺のほうが喜んでいたんだから。

主演予定だった映画『キネマの神様』は山田洋次監督と志村さんが組むんだから、“志村さんは第2の寅さんになる”と信じていた。でも、役者としての志村さんの凄さがわかるのと同時に、残念さを同じくらい感じてしまうんだよ。だからちょっと今はまだツラくて、朝ドラの映像もどこまで見てられるかわからない」


亡き盟友への胸中をモト冬樹は4月30日付のブログでこう綴っている。

〈昨日は志村けんさんの月命日でした。志村さんの誕生日会に行くたびに、毎年いただいた志村さんの帽子。これも、これも、俺の大切な宝物になっちゃったな。志村さんのあのはにかんだような笑顔。いつまでも忘れないよ〉

田代まさしの代わりだったモト冬樹の出演

 4月18日からYouTubeでは、1987~1996年に放送された「志村けんのだいじょうぶだぁ」(フジテレビ系)が公開され、1本目の総再生回数は530万回(5月3日現在)を超えた。

モト冬樹にとって、ザ・ドリフターズのメンバーを経て喜劇役者となった志村はかけがえのない存在だった。そして志村に対して、ずっと打ち明けられずにいた“後悔の念”があったという。

「こんなこと志村さんには一度も話したことないんだけど、俺も音楽やって、お笑いに行ったから志村さんが目標ではあったよね。今もYouTubeで『(志村けんの)だいじょうぶだぁ』を見ていると、やっぱり志村さんは格段に面白い。こんなことを言ったら変かもしれないけど、田代(まさし)がより志村さんの笑いを際立たせていたよね。当時の田代の才能は素晴らしかった。

実は田代が(不祥事で)いなくなったときに、志村さんが声を掛けてくれて、俺を田代の代わりに『(志村けんの)だいじょうぶだぁ』に入れてくれたんだよ。俺はビジーフォー(でお笑い)をやっていたから、志村さんは認めてくれていたところもあった。俺も田代の後だから『やらなきゃ』と意気込んでいた。でも、実際にコントをやってみると難しい。結果的に俺は志村さんに対して、きっと田代ほどのサポートはできなかったんだろうなという後悔をずっと引きずっている。自分に田代ほどの才能があればもっと一生懸命やったと思うんだけど、志村さんはきっと田代のような存在が欲しかったんだと思う」

1986年ごろ、ラッツ&スターのメンバーだった田代まさし(63)は志村に才能を見出され、タレントに転向。90年代、「志村けんのバカ殿様」「志村けんのだいじょうぶだぁ」とコントで笑いを届ける志村の傍らにはいつも田代の姿があった。しかし、相次ぐ不祥事によって田代は芸能界から引退し、志村の前からも姿を消した。

「田代って、あんなめちゃくちゃなヤツだけど、コントの打ち合わせでみんな悩んだりするときは、相当意見を出していたと思う。俺は田代を認めていた部分もあった。あいつも同じミュージシャン出身だし、ラッツ&スター時代も田代が振付なんかをやっていて、間合いとかテンポのセンスは抜群だったからさ。本当に残念だよ」

「才能ある人が先にいなくなっていく」

 新型コロナウイルスは、ドラマ「天までとどけ」(TBS系)の母親役や、情報番組「はなまるマーケット」(同)のMCとして親しまれた女優・岡江久美子(享年63)の命も奪った。生前、岡江と何度も共演したモト冬樹は、一度大きく溜息をついて、心境を吐露する。

「俺は『はなまるマーケット』に何度も出たし、もう随分前のことだけど岡江さんとはドラマで共演したことも何度かあるんだよ。岡江さんは江戸っ子でサバサバしていて、すごくかわいさがあって、あの人がいると周りが本当に笑顔になる。志村さんの次に、まさか岡江さんがっていうのは本当にツラい。

いい人から先に亡くなるんだなって思う。才能ある人が先にいなくなっていくような気がして、残っているのは俺のようなカスとかさ、そういうのが長生きするのかなって思わざるを得ないんだよ。それが悲しいよね。なんでいい人から先に亡くなっていくのかを考えると、この世の中で俺らは『まだ修行しろよ』と言われているような気がする。志村さんや岡江さんは十分に世の中に貢献したから、天国に行ったのかなって思うようにしている」

「生きててなんぼなんだから。身体を大事にね」。インタビューの最後にそう記者に語りかけたモト冬樹。現在、新型コロナウイルスによる余波でほとんどの仕事が白紙となり、毎日自宅で過ごしているという。一日も早い新型コロナウイルスの感染拡大の収束を願いたい。


本当に志村けんさんの優しい人柄が現れます