長男が小学4年の時だった。
家族そろっての夕食時、突然真剣な顔で
「ねえママ、“かけおち”ってなあに?」と質問してきた。
私は味噌汁を吹き出しそうになった。
「え?だ・誰がそんなこと言ったの❓」
「たくや君!昨日、たくや君のお母さんかけおちしたんだって!」
私は危うく持っていたお椀を落としそうになった。
にわかには信じられない話だったが、子供の疑問には答えてあげないと
と思い、一応ざっくりと説明した。最後には不安を与えてはいけないと思い、
お母さんはしませんよぉ と念のため伝えた。
それから数日して、その噂が色々なところから聞こえてきた。
そして同じ頃、スーパーで買い物をするたくや君家族を見かけた。
疲れた表情のパパとお兄ちゃん。
たくや君はいつも通り元気でにこにこしてた。
買い物かごの中に長ネギとゆでうどんが入っていて、それを見たら
何とも痛々しくて、ママが早く帰ってきてくれないかなあと願わずにはいられなかった。
今は駆け落ちって死語なのかな?
それに代わってフリン フリンって身近でも聞かれるようになり、ゾッとする。
駆け落ちは人生をかけての大勝負。
その点フリンはちょっとくらいで始まってしまうのが地獄の入り口と気づかないのだろう。
特効薬もなく、まさに現代の指定難病かも。
家庭を持っている息子たちのことがふっと心配になった。
お嫁さんたちは血がつながっていないだけの私の可愛い娘たち
そういえばフリンはいけませんと教えたことは無かった。
ここは母らしく美しい言葉で、相手の心に響くように、ダメなものはダメ!
と息子たちに教えないと!
「家族を泣かせるようなことをしたら、穴掘って埋めるぞ!」
息子たちを前にして、コーフンした私は母としての品格のかけらもない一言を吐き出していた。