わたしはずっとずっとずっと頑張ってきた。
だけど、もう身体を起こす力も残っていないみたい。
土の上に寝てみた。
そしたら、そのまま起きることができなくなった。
学生の頃、英会話を教えてくれていたイギリス人の奥さんが、私のために、いつもハーブティーを入れてくれていた。
小さな庭にびっしりとハーブを植えて、それを摘んでくる。
ツチハ、イキモノノ、オカアサンデス。
といつも、微笑んでいた。
ヒトモ、ツチカラウマレ、ツチニカエルノデス。
私は、その人のことが好きだった。
ニホンジンハ トテモツカレテイマス‥
時々、彼女はこう言った。ある日、真顔で、
アナタガ トテモ シンパイ‥
そう言った。私は怖くなって、英会話に通うことをやめた。
続ければよかったかな~
土の柔らかい匂いが心地良い。
このまま、グロテスクに腐っていっても、受け入れてくれるんだ‥
私は小さい頃から、母の要求を叶える為に、生きていた。
母は、私にスーパーマンになってほしかったみたい。
とにかく、有名人やその道の最高峰の偉人の話ばかりしていた。
私がミスをすると不機嫌になる。
親戚や知人に会うときは、身だしなみを整えた私を自慢気に連れ回した。
あの頃は、優秀でいれた。
だけど、大学に入学してから、おかしくなり始めた。
母の祈願だった東京の女子大に落ちた。
ひとつランクの落ちる滑り止めには受かった。
人はすごいねと言ったけど、母は口をきいてくれなかった。
私は、母に申し訳なくて、奨学金を受けて上京した。
挽回するために、また頑張ってきた。あのイギリス人の奥さんに出会ったのもその頃‥
そして就活。
私は、大企業をすべて落ちた。
あまり田舎では名前の知られていない企業に就職が決まった。何十社受けたか覚えてもいない。
母は、電話口でため息をついてこう言った。
『その道のプロにならないとダメよ』
プロ‥
私が最も恐れるワードだった。
私は頑張って頑張って早朝から深夜まで働いた。だけど、お給料は、奨学金と家賃と光熱費を払うとほとんど残らなかった。
奨学金の返済が負担だった。
ふと知り合った人に相談した。
風俗をやって、早く還したらいいよと言われた。
若いうちしかできないから、割りきってやってる子も多いと。
私は怖かったけど、頑張って、仕事の合間に働くことにした。
処女だったから、すごく怖くてその人に相談すると、処女は邪魔だからと、その人と初体験は済ませておいた。
風俗は、辛かった。
私の容姿が冴えないことと、お客さんが満足するように感じないことをいつも指摘された。
プロ意識が足りない。
いつも誰からも叱責された。
『その道のプロにならないとダメよ。』
偉人になってほしかった母の言葉が余計に追い詰める。
私は、AVで感じ方の表現を必死で勉強した。
貧相な顔と胸は整形した。
整形したから会社は辞めた。
奨学金の返済を1日でも早く終わらせたかった。
私の努力で、お客さんはどんどん増えた。
プロに近づいているんだろう。
もっと頑張らなければ。
でも本当は、私は、一度もセックスで感じたことはない。
母とは、就職が決まってから疎遠になってしまった。
母の気に入る仕事につけなかった私が悪い。
それに、整形してしまったから、もうこの顔では会えない。
母も私に会いにくることさえしない。
早く奨学金を返済して、資格をたくさんとって、すごいキャリアを手に入れなければ。
そして、雑誌やメディアに載って、一流の人脈を作って、母にみせたい。
寝てる暇、休んでる暇なんかない。
そんなとき、同僚が、眠くならない魔法の薬をくれた。
凄かった。
私、凄く頑張れるようになった。
いつもいつも自分を叱責しながら頑張ってたけど、もっと頑張れるようになった。
ある日、
ネットに私の噂を書き込まれはじめた。
あいつは整形、あいつはジャンキー、金の亡者‥
そして、実名、出身校、過去の写真まで晒されてしまった。ブス、キモい、金カエセ、シネ、、
母から電話がなり続ける。
耳を塞ぐ。
もう終わりだ‥‥
私はふらふらと街をさ迷い歩いた。
知らないうちに、近所の古家が解体されて、更地になっている。
土。剥き出しの土。
私は、土の上にへたりこんだ。
ツチハ イキモノノ オカアサン‥
あの奥さんのハーブティー、美味しかったな~
アナタノコトガ シンパイ‥
あのまま、彼女の元に通い続けたかった。本当は。
だけど、そうなったら、私は壊れてしまうと恐怖を感じた‥
土は、私の醜い身体を抱き止めてくれるだろうか?
私は、もうほんとうに疲れた。
お母さんごめんなさい。
有名になれなくてごめんなさい。
すごいひとになれなくてごめんなさい。
故郷に錦を飾れずごめんなさい。
私は、、一度でいいから愛されたかったな~
ただありのままに。ダメなままに。
私は、このまま腐敗してオカアサンの元に還りたい。
整形のシリコンだけを残して‥
ヒトハ
ツチカラウマレテ
ツチニカエルノデス‥