長いようで短い人としての転生‥
何度も何度もつまずき、涙や血を流しながら生きていた‥
やがて、ある生をうけた時に、私は口のきけない少女として、海辺の片田舎で育っていた。
親やまわりの人みんな、私に同情していた。
だけどなぜか私は清らかだったわ。
心の底で、もういつわりの言葉を話さなくてもいい‥という思いが、
泉のように湧き続けていたのは不思議だった。
口がきけない分、私は饒舌だったのよ。
目の前に広がる自然や海や動物たちと、いつも心の中で語り合っていた。
海風は、幼子の私に、ひどく懐かしさを覚えさせてくれていた。
まだ、懐かしいと感じるには幼すぎる年端なのにね‥
言葉を介さない語らいの一方で、言葉を介する人々の荒み様は、対照的だった。
人々は誰とも繋がりあうことができずに、常に苛立っているようだった。
口がきけないことは幸いのように、ひっそりと思っていたものよ。
そんな私は、少女から女性へと変貌をとげはじめていた頃、
馴染みの漁師の船にのっていた。
女だてらに、漁が、沖の海が好きで、何より合間にぼくとつと話してくれる昔話を聞くのが大好きだった‥
『あの島、見えるじゃろ‥あれはな、女がすかん男神の島じゃて‥』
その瞬間、私ははっとしたわ。
昔昔の大昔のおとぎ話の中で時空を飛び越え、私はまるで自分の目で見ているかのような感覚におそわれた。
『ほんでの‥向こうに見えとる丸っこい島あるじゃろ?あの島と…』
あの島と‥?
そう、あの島と男神とよばれるこの島と‥‥
その瞬間、はっきりと男神とよばれる島の、悲しい、乞い慕うような海面を漂う慕情を感じた。
‥2つの島は切り裂かれたの‥
(今でも今でもわたしはあなたを想う‥)
船から見える海面に小さな渦が巻いていたわ。
私は海へとびこんだの。
無我夢中だった。なぜだかわからないけど必死だった。
海の中は静かで蒼くて‥
母胎のように優しかった‥
長い時間眠っていたように思う。
受胎をして誕生する十月十日、安寧の中で浮かんでいるような気持ち‥
ふと目がさめるとどうやら海の底にいるようだったわ。
光さえ届かない深海にいた。
目の前に古くさびれた鉄杭が貫きささっているのが見えたわ。
私はそれを渾身の力で引き抜いたの。
抜いた穴から逆向きの気泡が浮いた。
やがて大きなうねりとなって‥
これがあの時から数えて33回目の転生だったの。
33という数字はね、結界を一巡する聖なる数なの。
(男島様、女島様、また再び巡り逢えることと思います)
だって渦はまた逆向きにまわりはじめたんですもの。☆
こわくなかったかって?
こわかったわ、ほんとうに。
じゃあどうしてって?
そうねぇ‥
男島様と女島様が好きだったからよ‥
口のきけない私の長いお話を聴いてくれてありがとう。
1つだけ、あなたにお願いがあるわ。
七夕の夜に、
あなたの大切な人に、このお話をつたえて‥

~おしまい