伊藤忠兵衛さん。 | シン・135℃な裏庭。

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少し、お年を召した紳士がお見えになり、


お供は一人。


いろいろ見てまわられ、

海に陽の落ちた頃、私を書庫にお呼びになり、


「新聞でみました。じっとしていられなくてね」


とおっしゃり、白い封筒をくださいました。


名刺をみると、伊藤忠兵衛と書かれてありました。


あの伊藤忠の忠兵衛さんでした。


初めていただいたご寄付でした。


「冬に暖房なんかいりません」


という町の人を信用して、


そのため、板の廊下で、暖房はありません。


私は働きにいかなければなりませんから、


夜中にこっそり、出かけようとしたとき、


「まり子ちゃん」と呼ぶ声が聞こえました。


飛んでいって抱いたら、

不自由な足が氷のように冷たくて、


廊下をはって、追いかけてきたのです。


………


駅のそばに『店じまい』とかいたカーペット屋さんがあったっけ。


………


すごいすごい大バーゲンでした。


いただいたお金は、


全館敷いてもまだ余り、

何年もつかった赤いカーペットでありました。


その上を泳ぐように歩く、足の不自由な子、


転んでもけがをしないので安心して歩く子、


ありがとうございました。


あのときのありがたさ。

一生忘れません。







『約束』より。


宮城まり子さん。。