「私のお祖父ちゃんはね、
九州の久留米で足袋の会社をやってたの。
炭鉱があったのよ。
冬、夜中に働いた鉱山夫がね、
朝早く仕事を終えて出てくると、
昔は草履をはいていたから、
足はひび破れて切れて、血が流れ出していた。
そして、バイキンが入り大変なことになる人が多かった。
アレはなんとかならないか、
かわいそうだと。
うちは足袋屋でしょ。
足袋を強い布でつくって、
底をゴムでおおって、脚絆にしたのですって。
お祖父ちゃんが考えたのよ。
努力して、努力して。
それが、皆さんがはいてくださる
“地下足袋”なのよ」
「明治のおじいちゃんは、
やさしい心で発明したのですね」
そんな話をしてくださいました。
山を登る人も、山に入る人も、
工事をする人も、畑に入る人も、、
明治の日本人は、
やさしい心で、地下足袋をつくったのですね。
夕方、陽は落ちて、そして星が出てきました。
濃いブルーの夜の空は、
美しかったです。
『約束』より。
宮城まり子さん。。