すべて見てもらいたいと思っているのに、
彼女は、陽のあたるグランドか、広い教室か、職員室ぐらいを見ればいいのだろうと思っているようだ。
これは大学の先生の責任だと思った。
音楽を教えるものは、音楽室だけ見ればいいってもんじゃない。
大キライな算数の部屋も、好きな絵の部屋も本棚もみんな知って、
音楽があるのではなかろうか?
調理場の食器の音もおなべの音も音楽ではないだろうか。
自分を見つめる大きな鏡も必要ではなかろうか?
美しい色を、小さな花びらを、
枯れかかった木も、散りはじめた葉っぱも、
できたらトイレも、冷たい風も、
みみずの鳴き声も、淋しい家庭環境も、
すべて音楽であり、画であり、文章であり、
そして人間づくりなのではあるまいか?
やさしい心を持ちなさいと教えても、
どれがやさしいのか、
感じる心が必要ではなかろうか。
心の教育は簡単ではない。
『まり子のねむの木45年』より
宮城まり子さん。。

*本日のあじさい