こんな話をしたかった。 | シン・135℃な裏庭。

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「人間ってものは魂がある。


とあんたはいつか言ったっけな。


ばか言え、と俺はあの時思ったよ。


~~~


しかし、あんたの家に行って、


何だったか内容なんか全部忘れてしまったけど、

話をしていた時、


俺は正直言ってびっくりしたね。


世間にはこんな話もあるのかと思ったね。


それまでのうちの話は全部、


人間の皮を上からなでて行くような話題ばかりよ。


何をしたら、どうもうかったとか、


誰と誰がくっついたとかはなれたとか。


誰が家を買った、株でもうけた、選挙でどうした、


どう出世した、どこの学校へ入った、


と、それだけさ。


親父はよく『そんなことすると、後で責任とらなきゃいけないぞ』


という言い方をした。


普段ほとんど口をきかない男が、


そんときだけ、声だすんだからな。


おふくろも同じようだった。


『かかわり合いになるから、断ったほうがいいよ。』


というせりふを何度聞いたか知れない。


~~~


『誰でも思いを残して死ぬのよ』


いつかあんたがそう言った事を


今、毎日思い出しているんだ。


俺はその言葉を言ったあんたの横顔まで思い出せる。


今、あんたのその言葉だけが慰めだ。


他の言葉は全部忘れちまっても、


この言葉さえ覚えていればいいと思う。


感謝してるぜ。


じゃ、 またな」







天上の青


曽野綾子さん。


*死刑因が好きなひとにあてた手紙。。